芙蓉の書-成均館スキャンダル屋根部屋のプリンス3days二次小説

JYJユチョン主演の韓国ドラマドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」「スリーデイズ(3days)」の二次小説ブログです。
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柔らかな、部屋の隅 一覧

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 1  

3days(スリーデイズ)連載

She's got a smile that it seems to me
Reminds me of childhood memories
Where everything was as fresh as the bright blue sky

Now and then when I see her face
She takes me away to that special place
And if I stared too long
I'd probably break down and cry

Her hair reminds me of a warm safe place
Where as a child I'd hide
And pray for the thunder and the rain
To quietly pass me by

--Rose, W. Axl


彼女の微笑みを見ると、僕は子供の頃を思い出すんだ
あの頃は、鮮やかな青い空のように、全てが澄み切っていた

時々彼女の顔を見ると
あの特別な場所に連れて行かれるんだ
だけどもし見つめ過ぎると
多分僕は泣き崩れてしまうよ

彼女の髪は、暖かくて安全な場所を思い出させる
子供の頃、隠れていた場所を
そこで僕は、雷や雨が
静かに通りすぎるように祈っていたんだ

- - - - - - - -

ボウォンが上機嫌だ。
助手席で鼻歌を歌っている。
複雑な気持ちで祝福すると、彼女は小さくガッツポーズを決めた。

――頑張らなくていい。

このガッツポーズの数時間前に、ボウォンが、短時間でもいいから会いたいと留守電にメッセージを残した。
警備が終わり、後は明日の警備計画書に目を通して帰るだけ。テギョンは、デスクで伸びをしながらこのメッセージを聞いたのだ。
メッセージは、機械を通してもなお隠し切れない喜びで溢れていた。
落ち着いたトーンの彼女の声が今日はやけに弾んでいる。
ストレートに逢瀬を乞われたら、こちらも喜び勇んで駆けつける他あるまい。
書類仕事が終わるやいなや急いで車を回した。
助手席に乗り込んだボウォンの笑顔に、どうしたのかと問う隙は、しかし与えられなかった。
「私、知能犯罪捜査チームに配属になったの!」
途端に頬が強張った。
彼女が加わるチームは、凶悪犯やら愉快犯やら思想犯やらの中でも、主に頭が回るタイプの残忍な犯人を追うために優秀な人材が集められた集団だ。
彼女が皆まで“知能犯罪捜査”の任務について説明しなくても、嫌というほどわかっている。
大統領を守る為に、連携せねばならない事態が起こるかもしれないから、警察組織の詳細を新人時代に頭に叩き込んでいた。
このチームが追う輩は、その辺のチンピラじゃないことも。
だから、仕事に誇りを持つボウォンの活躍ぶりを嬉しく思いながら、同時に、腹の中で苦虫を噛み潰したのだ。
『ボウォンが、知能犯罪捜査チームに配属!?』
チームの仕事が既知であるのと同様に、チームに配属された理由もまた、ボウォンに聞くまでもなかった。
選りすぐりの一人として名が上がったのは、紛れも無く、前大統領の暗殺未遂に係る大活躍が所以である。
あの騒ぎに引き込んだ当人なだけに、テギョンの腹の中の苦虫は相当に大きい。
ボウォンに素直に祝福出来ない自分を知られたくないから
「どこかで、お祝いする?」
と水を向けてみたが、本心は、家に彼女を連れ帰って、今後一切表に出るなと言い含めたいぐらいだ。
「テギョンさんの家に行きたい。いい?」
「いいよ」
願望の半分が叶ったらしい。
こちらの祝福の言葉を素直に受け取ったボウォンは、お気に入りのピザのお店を挙げて、テイクアウトを、そして近所のスーパーでビール大人買いを強請った。



色気がないし些か手抜きだが、ボウォンにとっては、これがお祝いのようだ。
ピザとビール、それにスーパーで大量に買い求めたツマミとボウォンが舌を出しながらカゴに放り込んだ焼酎。
それらをテーブルに並べている間も、彼女は上機嫌で鼻歌を歌い続けていた。
「食べたら、帰るね」
「泊まっていかないのか?」
「でも、テギョンさんは、明日早いでしょ?」
事細かにシフトを教えたことはないが、ボウォンは、パターンを覚えてしまっていた。
夕方に帰ってくる日の次の日は、早番とか。
早朝に仕事から上がると、その後丸二日休めることがあるだとか。
少し前に、ボウォンは、自ら割り出したパターンを披露した。
その報告は隅々まで愛に満たされていて、こそばゆいやら感動するやらで、惚けていたら、彼女は気まずそうに下唇を噛んだ。
余計な詮索をしてこちらの気を悪くしたと、不安になったらしい。
照れくさくて座りが悪いながらも、なんとか、ありがとうを喉から絞り出した。
以来彼女は、持ち前の鋭い洞察力で次のテギョンのシフトを当てている。
「君がそばにいるほうが、安心する。今夜は泊まって」
「そういうのは、もっとロマンチックに言ってよ」
「無理」
ロマンチックな気分には、断じてなれない。
ああ、そうさ。知能犯罪捜査チームなんかに行って欲しくないんだ。
自棄を起こしてピザを口いっぱいに頬張ると、ボウォンは「私が主役なのに先に食べた!」と負けずにピザを頬張った。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説    テギョン×ボウォン 

2015/09/10 Thu. 16:58  tb: 0   コメント: 6

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 2  

3days(スリーデイズ)連載

たらふく食べたあと、テギョンはシャワーを先に浴びた。
終わると、待ち構えていたボウォンが、ゆっくり湯船に浸かりたいから先に寝ていてと、飲んだ割には明瞭な口調で言って、バスルームに消えた。
今のうちに、寝室の空気を入れ替えたい。寝室のドアを開け、ライトのスイッチに触れずに中に入る。
ブラウンのブラインドの隙間から月明かりが抜けて出来たストライプ模様を踏んで、窓際に進んだ。
ブラインドの間に二本の指をそっと差し入れ、通りを行き交う人々を眼下に収めながら、ビルの影に怪しげな輩が潜んでいないか目を走らせるも、もちろん、おかしな人間は一人もいなくて、これもボウォンのせいだと独りごちた。
彼女が知能犯罪捜査チームに配属になったなんて言うから、過敏に反応してしまうのだ。
ため息を吐きながら、勢い良くブラインドの紐を引っ張ると、ブラインドは、派手に羽根がぶつかり合う音を立てて、あっという間に閉じた。
窓を開け、大きく新鮮な空気を吸い込む。
これで気持ちが落ち着くかと思いきや、肺に入り込んだ秋のひんやりした空気に、不安な気分を煽られた。
夜空に浮かぶ月が今夜は一際明るくて、月の周りで白く滲んだ光までもが、不穏な未来を連想させる。

――ボウォンを守りたくても、傍にいられないじゃないか。

まざまざと思い浮かぶのは、傷を追ったボウォンの姿だ。
ある時は撃たれ、またある時は爆風で気を失った。
囚われの身になったり、ああ、しこたま殴られて血を流したこともあった。
その全てで後手に回ったあの悔しさが、忘れられない。
知能犯罪捜査チームだって!?
ボウォンは屈強なスーパーウーマンなんかじゃない。
銃の引き金を引いた時は、恐ろしさのあまり震えていたのに。
怖くても、自らを奮い立たせて犯罪に対峙する健気な彼女の背中を知らないから、警察のお偉方は、あんなチームに彼女を任命できるのだ。
これが同じ大統領警護官なら、今すぐ上層部に掛け合えるだろう。
しかし。
ボウォンがそれを嫌がることも、わかっている。
己の狭量ぶりに、またも溜息が出る。
ボウォンの能力を信じていないわけじゃないのだけれど。
彼女の機転と勇気に一番救われたのは、誰よりもこの自分なのだから。
指先がひんやりとして、はたと我に返った。
サッシに置いた両手と金属の冷たさが同化していた。
視線を上げると、月は相変わらずその周りに光を滲ませていて、何をしたって解消されないテギョンの苛立ちを、せせら笑っているようだった。
ボウォンが戻ってくるまでに気持ちの整理をつけなねば、眠れぬ一夜を過ごすことになりそうだ。
警護でそれなりに疲弊した体にも、それにキャリアアップを喜ぶボウォンにだって、この反応はご法度だろう。
背後でわずかに床が軋む音がした。
テギョンが顔だけ後ろへ向けると、ボウォンがドアの隙間から顔をのぞかせた。
「ライト、つけないの?」
「外を見てた」
ボウォンは両腕で体を抱いて、小さく震えた。



前回の窓から入り込んだ秋の冷気で、部屋の中も冷え切っていた。
ふうん、と歌うような声を漏らしたボウォンは、テギョンの返事を特段気にしていないようだ。
初めてこの部屋に泊まった夜に貸したTシャツ姿で、長袖に指を丸め込みながら、窓を閉めてくれとテギョンに目で合図を送った。
Tシャツは完全にボウォンの物となったけれど、いつまでたっても、肩が落ちて鎖骨が覗きそうな襟口にどきりとさせられる。
だから、自分のパジャマを置いていけと言っているのに。
根源的な欲で、さっきの悩みが霞みそうだが、しかし、今夜はボウォンを抱く時間はない。
「寝てなかったの?」
月明かりが照らすボウォンの顔が、不思議そうに傾いた。
「もう寝るよ。そろそろ、自分のパジャマ、持ってきて」
「だって、これ着心地いいんだもん」
バスルームやリビングに、ボウォンの物が一つ、また一つと増えるたびに繰り返されたこの会話は、今夜もいつもと同じ結論で、終わった。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/09/13 Sun. 11:17  tb: 0   コメント: 4

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 3  

3days(スリーデイズ)連載

毛布の下に潜り込んだテギョンの胸に鼻を擦りつけたあと、ボウォンはおもむろにテギョンを見上げた。
窓を閉めた時ブラインドの羽根も下げたから、月の光が辛うじて漏れている以外、部屋は暗い。
親指の腹で長い睫毛を撫で上げると、彼女はくすぐったそうに肩をすくめて目を閉じた。
黒く艶めく睫毛はテギョンのお気に入りで、時折、こうして指の腹で梳かすように撫でる。
ぱらぱらと一本ずつ睫毛が肌から離れる様を眺めながら、綺麗な人だと見惚れるのだが、ブラインドで遮られた今夜の月の光は頼りない。
ただ黒い塊がするりと親指を掠めただけだった。
「くすぐったい」
ボウォンが、額をテギョンの胸に押し付けた。
猫のように左右に肌をこすりながら、前に進む。
おかげで、テギョンの背中はベッドの縁まで追いやられた。
「それ以上押したら、ベッドから落ちそうだ」
ボウォンは、自分の部屋のセミダブルのベッドより、このシングルベッドの方が好きだと言う。
大人二人がマットレスの上に横たわると、あとは寝返りも難儀なほどなのに。
だが、ボウォンはそれが良いのだと言う。
「やっぱり、ベッドを買う」
「買わないで。このベッドが好きなの」
「君のベッドはもっと広いだろ。僕のほうが体は大きいのに、ベッドは小さい」
ボウォンは返事をしなかった。ただ、テギョンの胸の中で、顔を左右に振った。



しばらく、ボウォンはテギョンの肩口に頭を預けていた。
温かな息がTシャツ越しに胸に広がって、体の奥が仄かに疼く。それが幾重にも重なって、年輪のように育っていく。
テギョンは、首を上げてベッドのヘッドボードを睨んだ。
明日は早番なのだ。
どんな言い訳を考えてみても、速やかに眠る以外の結論は出ない。
ならばせめて、この温かい息から逃げるべきだ。
背中でもぞもぞとベッドを這った。
だが、ボウォンの頭を抱きながらの移動はたかが知れている。
数センチも動けなかったはずだ。
証拠に、ボウォンは居心地が悪そうにマットレスに右手をついて起き上がった。
「反対しないの?」
単刀直入に繰り出された質問は、もちろん、知能犯罪捜査チームを内心快く思っていないテギョンへの率直な疑問だろう。
「したら、やめるのか?」
「やめない」
互いに聞くまでもない話だ。
テギョンはボウォンが危険にさらされるのを好むわけがないし、ボウォンがそんなテギョンの穏やかならぬ心中に鈍感なわけもない。
テギョンは起き上がって、ヘッドボードに背中を預けた。
ヘッドボードと腰に挟まった枕を引き抜いて、両腕で抱き締める。
ボウォンは、毛布から抜け出し、膝を抱えた。
「本当は、反対だよね?」
「誇らしいよ。君の凄さは、僕が一番知ってるから」
闇に目が慣れてきたらしい。
白い肌が柔らかそうで、誘われるまま左手を伸ばし、唇を尖らすボウォンの前髪をはらった。
「無茶しないで。君まで失いたくない」
ボウォンが返事をする前に、額に置いた手を首の後にすべらせる。
「テギョンさん、寝なくちゃ」
「このまま我慢している方が眠れない」
唇を塞ぎ舌で歯をつつくと、ボウォンは上下の歯列をおずおずと開いた。
そして、鼻の奥で小さく呻いたのを合図に、テギョンは彼女の体をゆっくりとベッドに横たえた。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/09/29 Tue. 01:21  tb: 0   コメント: 2

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 4  

3days(スリーデイズ)連載

子供の頃、嫌なことがあると―それは父親の雷だったり、文字通りの雷や嵐だったりしたのだが―子供部屋の隅に秘密基地を作った。
そんなに立派なものではない。
絵本や図鑑を開いて立てて壁を作り、基地に見立てていたのだ。
テギョンが背中を預けた角から、壁伝いに視線を上げていくと、腰窓があった。
絵本の壁で強固な要塞を築き上げた後は、タオルケットに包まり、激しく雨が打ち付ける窓を見上げていた。
レースのカーテンは微動だにしなかったが、嵐が激しすぎて、そのうち風がガラスを打ち破るんじゃないかと、ヒヤヒヤしたものだ。
だが何故か、風が部屋の中で吹き荒れようとも、雷鳴が我が物顔で吠えようとも、壁の中にいれば何も怖くないと信じていた。
頼りない紙の束が何よりも堅牢な壁に見えたのは、絵本の表紙に描かれた勇者が、テギョンの一番のお気に入りだったからだろうか。
それとも、図鑑の中で王者の如く君臨するティラノサウルスが、今まさにテギョンの目の前で立ち上がり、鋭く光る両の眼で空をぎろりと睨んでいる気がしたからだろうか。
タオルケットは暖かく、そして、柔らかかった。
ふんわりとした生地に身を預け、『早く嵐が遠くに行きますように』と祈った。
遠くで優しい声が聞こえて、うっすらと目を開ける。
『テギョン、夕食の時間よ』
決まって母親が微笑んでいた。
絵本や図鑑は本棚に綺麗に戻されて、母親の温かな手が頭をなでてくれている。
そこで決まって、いつの間にか眠っていた事に気がついた。



スマートフォンの目覚ましの音が、けたたましく響いた。
眠りに落ちるか落ちないかの、うっすらとした意識の縁にいたテギョンは、ベッドサイドの携帯電話に飛びついた。
アラームのストップボタンと、続けて表示されたスヌーズ解除のボタンを立て続けにタップして、それから、肩越しのボウォンを恐る恐る見やった。
彼女は毛布の外に投げ出していた白いふくらはぎを中へ引っ込めたが、再び静かな寝息を立て始めた。

――良かった。

テギョンがボウォンを開放してから、二時間しか経っていないし、まだ朝日も昇っていない。
ボウォンとて、この後は体力勝負の仕事が待っている。
ましてや、今日はあんなに喜んでいた“知能犯罪捜査チーム”の初出勤日で、寝不足は避けたいはずだ。
断じて反対なことに変わりはないけれど、己の思いだけで物事をコントロールしたがるほど子供ではない。
テギョンは、静かに脚を滑らせて、ベッドの縁に腰掛けた。
腰をよじってボウォンに視線を移せば、薄い背中が静かに上下している。
夜闇に慣れた目は、露わになった肩甲骨に沿って記された赤い斑点を容易に認めた。
それを隠すように毛布を片手で引き上げると、白い背中がくるりと反転した。
「おはよう」
「ごめん、起こした」
「ううん、また寝るから」
テギョンが引き上げた毛布に首まで埋まりながら、ボウォンは小さく口を開けた。
「頑張ってね」
「君も」
ボウォンは口元をほころばせて、甘い笑みをテギョンに向けながら目を閉じた。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン   

2015/10/05 Mon. 11:29  tb: 0   コメント: 2

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 5  

3days(スリーデイズ)連載

クローゼットに並んだワイシャツを引き抜く。
肌を滑る生地が、腕の体温を奪っていった。
ボウォンの熱に包まっていた毛布の中が、もう恋しい。
それから、クローゼットの扉をゆっくりと戻す。
拍子に、またボウォンを起こしてしまったのではないかと疑心暗鬼で振り向いたが、彼女は口元まで毛布を引き上げた格好で、静かに眠っていた。
『無茶しないで。君まで失いたくない』
吐露した言葉を思い出す。
この言葉の真意を、ボウォンは多分知らない。
彼女を見つめ過ぎると、鼻の奥が痛んで、眉間に力を入れないと、涙が零れそうになることも。



子供の頃、部屋の隅で包まっていた、あのタオルケットは捨ててしまった。
父と二人、がむしゃらに前だけを向いて生きていると、思い出なんて何時しか霞んでしまう。
だから、ボウォンの笑顔を見るまでは、タオルを捨ててしまった記憶も胸の奥底にひっそりと横たわっていた。
夜遅く、自分より一足先にこのマンションに来ていた彼女は、おかえり、と玄関で出迎えてくれた。
他愛もない挨拶だった。
こちらが靴を脱いだことを認めて一度は背中を向けた彼女が、「そうだ」とまっすぐな髪を弾ませて、振り向いた。
白い歯が覗く赤い唇や、少し垂れた物静かな黒い瞳、丸く盛り上がった頬が、テギョンを父も母も健在だった幼い日に強引に引き戻した。
あの頃、空は青く明るく澄み切っていて、人も花も動物も、全てがテギョンに微笑んでくれた。
世の中に存在するのは善のみで、疑うことを知らず、無条件の信頼だけを外に向けていた。
怖いものは嵐と父親の雷だけ。
それも、急ごしらえの秘密基地に閉じこもれば、やり過ごせた。
ボウォンの笑顔を見た時、安堵と微かな恐れが入り混じった、秘密基地のあの暖かさに包まれたのだ。

――君といれば、僕は生きていける。

未だに、フラッシュバックに悩まされる。
暗く瞳孔を開いたまま動かなくなった室長や、父の死を告げる留守番電話の声が、いつまでも視界や耳から離れないのだ。
だが、ボウォンが微笑むたびに、指先まで血が通った。
彼女は、こんな情けない自分は知らない。
ただ静かに、無条件の笑顔を向けてくれる。
無条件の笑顔が、幼い自分が受けていたあの暖かさに、似通っていた。
でもその場所はあまりにも暖かくて柔らかくて、不意に背中を突かれたら、際限なく泣き出してしまうだろう。
それこそ、子供のように泣きじゃくってしまうに違いないのだ。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】

2015/10/30 Fri. 14:43  tb: 0   コメント: 4

【スリーデイズ 二次小説】柔らかな、部屋の隅 - 最終話  

3days(スリーデイズ)連載

一日中公務で缶詰の大統領の警備は、体力だけに注目すれば比較的楽だ。
青瓦台の幾重にも張り巡らされた警戒網の最終地点である警護官は、この建物の中を歩きまわる大統領に寄り添えばいい。
彼が一度執務室に篭ってしまえば、ドアの前で待つだけである。
しかし、皆が休息日と冗談めかして呼ぶ、この楽な勤務は、今回ばかりはテギョンにとって凶と出た。
立ちっぱなしだから、眠気が際限なくテギョンを襲う。
新入りだった頃、うっかり立ったまま眠りこけ、暗号表を前大統領に奪われるという失態を犯したが、今のテギョンに冗談みたいなミスは許されない。
指で頬をきつく抓り、そっと隣の男を盗み見た。
同じチームのこの男は、馬鹿正直に前を見据えている。
危うくうたた寝に陥りそうになったテギョンの不審な動きなど、気に留めていないらしい。
とりあえず、この瞬間の眠気はやり過ごせた。
テギョンは、手首の腕時計を睨む。
あと十分後、いや五分後にまた視界が揺れるような睡魔がやって来るだろう。
小さく欠伸を逃し、来るべき睡魔に対抗すべく腹に力を入れた。



休息日とあだ名がつくほどのんびりとした警護は、一方で拘束時間が長い。
窓の外に夕日が浮かぶ時間になって初めて昼食にありついたテギョンは、両腕を大きく後ろへ反らせた。
立ちっぱなしで凝り固まっていた腰が、徐々にほぐれる。
眠気覚ましに、誰か適当な相手を見つけて道場でテコンドーの稽古でもしたいぐらいだが、あいにく仲間達は、昼食を平らげるやいなや列をなして仮眠室に雪崩れ込んだ。
ベッドに倒れたが最後、次のシフトが来ても泥のように眠り続けかねないテギョンは、一人、給湯室に残り、いつもの倍のスティックコーヒーをカップに振り入れ、湯を注ぐ。
カフェインが誤魔化し程度にしかならないほど、頭が鈍い。
だが、それもこれも、考えなしにボウォンを襲った己の浅はかさゆえ。
コーヒーを口に運びながら、こめかみを強く押した。
ぼうっと給湯室の壁紙を眺めていたら、突然、内ポケットの携帯電話が震えた。
テギョンは飛び上がらんばかりに体を揺らす。
眠い頭には、こんな些細な振動も大きな刺激である。
携帯電話の画面には、ユン・ボウォンの文字。
画面をスライドすると
『初出勤!』
のメッセージと共に、新しいチームメイトとの集合写真が添えられていた。

――知能犯罪捜査チーム、か。

早くもチームメイトに馴染んだ様子のボウォンは、警官の制服ではなく、シンプルなシャツとデニムでポーズを取っている。
こちらの固い態度で遠慮したのだろう、本人の口から「刑事になった」と聞かされてはいないが、警長のままでは捜査権が与えられないから、刑事に昇進したはずだ。
写真の中のボウォンは、口の両端を綻ばせていた。
一方のテギョンは、特別チーム所属と昇進という、まず普通ではありえない大抜擢が二つ重なったにもかかわらず、昨夜はまともに祝いの言葉を掛けてやれなかった。
一晩越えて冷静になると、今更ながら悔やまれる。
『ちゃんとしたレストランで、昇進祝いをしよう』
返事はすぐに返ってきた。
『ほんと?』
テギョンが受信するやいなや、
『どこにする?』
矢継ぎ早に次の質問が飛んで来る。
『君の好きな店で。考えておいて』
文字を打ちながら、快活な彼女の笑顔が目に浮かんで、思わず忍び笑いを漏らした。
目の前に「どこにする?」とこちらを覗き込むボウォンがいるようだ。
気づいたら、眠気も吹き飛んでいた。



再び白い壁に視線を戻したテギョンは、
「どこに行くんだろう」
と呟いた。
テギョンとボウォンは、父の死をきっかけに偶然出会い、大きな川の流れに身を任せるように二人で寄り添って、今、ここにいる。
二人とも、ある意味命と引き換えにして志した道を、使命と信じて進んできた。
振り返っても、立ち止まっても、やはり己の人生はこの道しかないと、前を向く。
テギョンがボウォンを案じるのなら、逆もまた然り。
互いに明日の保証がないまま、添い遂げると約束も出来ぬまま、日々を過ごしている。

――僕達は、どこに行くんだろう。僕達は、どこに行きたいんだろう。

不安ではない。
ただ漠然と、この先どうなるのだろうと思うのだ。
手のひらの中の携帯電話がまた震えた。
絵文字だけが踊るメッセージが表示される。
『僕達、どこに行こうか』
レストランの話だと思っているボウォンは『もうちょっと待って』と寄越してきた。
部屋の隅の、あの秘密基地のような場所を与えてくれるボウォンに守られているのに、まっすぐ「君を一生守る」と言えない自分がもどかしい。
だからこそ、今日の君を守りたい。明日は、明日の君を守りたい。
ボウォンが昇進したら一緒に喜んで、落ち込んだらコーヒーを淹れてソファーで過ごす。
目の前を通り過ぎる日々を捕まえて、没頭すればいいのだ。
今は、それが何処に行き着くのか、わからない。
だがきっと、振り向いて二人で歩んだ道筋を俯瞰した時に、自分達は正しかったのだと思えるだろう。
テギョンは『ゆっくり決めて』と返事をして、腕時計を見やった。
シフトまでまだ時間は十分にある。
やはり、一人でもテコンドーの稽古をして、怠い体を解すべきだ。
内ポケットに携帯電話を収め、ゆっくりと立ち上がった。




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【作品名】柔らかな、部屋の隅

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/12/24 Thu. 02:50  tb: 0   コメント: 4

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