芙蓉の書-成均館スキャンダル屋根部屋のプリンス3days二次小説

JYJユチョン主演の韓国ドラマドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」「スリーデイズ(3days)」の二次小説ブログです。
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また、大人小説(R18)の閲覧はご自身のご判断でお願い致します。

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【テーマ】

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【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 1  

3days(スリーデイズ)連載

「キスしていいよ(こちら)」と対になるお話です。「キスしていいよ」からお読み下さい。
また、ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

- - - - - - - -

青瓦台の随行チームの事務所は、書類仕事をこなしながらもどことなく緊張が緩んだ警護官たちが叩く、キーボードの気怠げなリズムで、満たされていた。
太陽が運ぶ春の陽気が、眠気を誘う。
テギョンはだが、そんな緩やかな時間を尻目に早々と書類を仕上げ、今は携帯電話の画面に目を落としていた。
『私は警察官だから、危険な地区や犯罪を誘発しやすい建物の構造は、よく分かってます』
ボウォンからの返信は、予想の範疇ではあった。
しかしそれでも、眉頭は自然と距離を縮める。
ボウォンは強い。
本人もそれを自負しているし、彼女の強さに頼り切りだった己の過去も自覚している。
だが、自分は逞しく危機を乗り越えられると自信を持っている人間は、思わぬ場面で簡単に倒れてしまうものだ。
ボウォンは、指で急所を押さえたらあっさりと気絶してしまうほど、か弱い一人の女だった。
にも拘わらず彼女の大胆さに騙されていた己が言うのも、なんなのだが。
肋骨にひびが入っていた彼女に、様々な注文をつけたことを思うと、頭を抱えたくなる。
これからも、警察官としての信念を貫く彼女は、無茶をし続けるんだろう。
だからこそもう同じ轍を踏むまい、と心に決めたのだ。

――それに、自分と関わる限り、ボウォンはまた危険な目に会うかもしれない。

大統領に銃の照準を合わせるような、大胆不敵な犯罪組織が簡単に現れるほど、この国が荒んでいるとは思わない。
だが、ファルコンは、まだのうのうと金儲けをしている。
ファルコン同様の、悪を悪とも思わぬ集団が、まるで気が触れたかのように大統領を襲うことは、金輪際ないと言い切れないから、警護官が始終付いて回っているのだ。
いざ事が起こった時、警護官が悪の枢軸とも言える彼らにマークされるのは、必至だ。
理屈が通じない彼らが、警護官の周りの人間を巻き込んでいくことも、容易に予想がつく。
すっかり危機は去ったつもりでいるボウォンは、これに気づいていない。
テギョンが、どう返信したものかと顔を上げると、にやけ顔のパク・サンギュが目の前に立っていた。
「彼女からメール?」
「彼女じゃない」
「ああ、まだ、付き合ってないのか。お前、休み時間に入ったよ。お前のチーム、みんないないだろ?」
部屋を見渡すと、随行チームの事務所で書類仕事していた仲間たちは、一人残らず消えている。
別チームに属するサンギュに、今度は俺たちの番だと、肩を叩かれた。



テギョンは、出勤前にコンビニで買い込んだ弁当を持って、誰もいない随行チームの向かいの会議室に入った。
『それでも、用心して下さい』
両手で文言を打ち込んだが、これでは弱い。
全て消去して、また、どう返信したものかと考えを巡らせた。
付き合っているのなら、話は早いのだ。
僕の傍は危険だと明言すれば良い。
『僕も手伝います』
真意が伝わる気がしないが、用心しろより、ましだろう。
テギョンは送信ボタンを押すと、弁当を掻き込んだ。
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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/04/14 Tue. 11:48  tb: 0   コメント: 6

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 2  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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ボウォンは、手伝うというテギョンの申し出も、なかなか承諾しなかった。
彼女はあくまで自分は平気だと言いはる。
それでも馬鹿の一つ覚えのように、「安全に配慮しろ」と「手伝う」を繰り返し、やっと彼女の承諾を得たが、今度は二人の休みのタイミングが合わなかった。
唯でさえ焦れていた。
そんな中、携帯電話をいじっているだけで、パク・サンギュのみならず、他の警護官まで意味深な笑いを含みながら、一言二言残していく。
会話の内容を知るはずもない、ましてや相手が女だと言ったはずもないのに、
「成績上位一パーセントの男が、形無しだな」
などと、まるで見てきたかのような横槍を入れるから、ますます苛立ちが募った。
その後なんとか約束を取り付けて一緒に向かった先は、彼女の主張通り、確かに安全そうなマンションだった。
正直なところ、引越候補の三つの内のどれも、治安の良さは大差ない。
だが、自分のマンションの近所の部屋が一番安全だと嘘をついた。
必死だなと、我ながら苦笑を禁じ得ない。
しかし、幸いボウォンも異存はなかったらしい。あっさりとその部屋に決まった。



自転車がきわどい距離でボウォンの脇をすり抜けた。
「危ない!」
考えるより先に体が動くなんて当たり前で、断りもなくボウォンを引き寄せた。
何度も腕の中に引き込んだことのあるその体が、この時ばかりは一段と小さかった。
ボウォンは、自分の肩よりも頭半分高い。
だが急に彼女の手首を思い切り引き込んだから、体勢を崩した彼女は前屈みの姿勢で大人しくなっていた。
胸にあたる頬が柔らかくて、このまま両腕で彼女の体ごと抱き締めてしまいたくなる。
なんとか衝動を抑えこみ、けれど彼女の体温が名残惜しく、掴んだ手首を引いたまま腕時計を確認した。
「ソジョ里行きのバスまで、まだ時間はありますよね?」
ボウォンが頷いた拍子に、胸板と頬が擦れて新たな熱を生む。
ああ、これ以上はまずいなと、慌てて体を離した。
けれど、掴んだ手は離せない。離したくない。
一瞬体を強張らせたボウォンは、あの、と揺れる瞳をこちらに向けた。
ボウォンの、戸惑うと突如として露呈する、あどけなさ。
それにこちらがノックダウンしていることも、他の男に見せたくないなと独占欲を掻き立てられていることも、彼女はまるで頭にないんだろう。
初めて自宅に招き入れた夜の玄関の彼女と、同じ顔だ。
あの時はまだ、朧気だった好意を直視する余裕がなかったが、さすがに自分のシャツを着ている彼女の姿を見た時は、引き締めていた緊張感がぐらついた。
けれどもう、あの時のように平常心を取り戻す必要もない。
嫌かという問いに、ボウォンはでも、と躊躇した後、
「いいえ、嫌じゃないです」
と俯いた。
だから、ボウォンの手を強引に引っ張った。



具体的に計画を練っていたわけではなかったが、ボウォンが帰る前に、想いを告げるつもりでいた。
気持ちを確かめてしまえば一言で済むことも、周りくどい道筋を辿らなければならない、曖昧な距離がもどかしかった。
「私たち、付き合ってるんですか?」
こう言われて、先を越されたなんて思ったとボウォンが知ったら、彼女は怒るだろうか。
チャヨンを気にして拗ねた顔が可愛かったと言ったら、怒るだろうか。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/04/18 Sat. 18:30  tb: 0   コメント: 8

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 3  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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ボウォンが、チャヨンとの仲を誤解しているらしいと気づいたのは、ボウォンがチャヨンの病室を慌てて出て行った時だ。
彼女は、チャヨンの看病をしていたのに、急に帰ると言い出した。
ボウォンの思い込みはわかっていたから、彼女が最後まで言わずとも、否定できた。
「仲間です」
ボウォンは、納得していないらしい。むくれていると思ったら、今度は愛想笑いを浮かべる。
そして、下を向いて顔を隠して、ぎゅうぎゅうと繋いだ手に力を込める。
こんな風に最大限に拗ねられたら、たまらない。
こっちは、サンギュがボウォンの肩に触れただけで瞬間湯沸器よろしく沸騰するほど、惚れているのだ。

――ああ、こんな。キスしてやりたい。

華奢なうなじを引き寄せて唇を奪った。
唇が触れる直前で、彼女の体に力が籠もるのがうなじから手のひらに伝わって来なかったら、舌で彼女の唇をこじ開けるぐらい、前のめりだった。
薄い皮膚を触れさせるだけのキスだけで思いとどまったのは、それと、柔らかい唇に触った途端に、先走りすぎたかもと頭の中で警笛が鳴ったからだ。
それでも、離れがたかった。
ゆっくりと体を起こす。ボウォンは、また、顔を伏せた。
「ユン巡査」
いざとなると臆病になる。
一方的にキスまでしたのに、万が一にも振られる可能性、なんてものまで頭をよぎる。
それに、告白なのに出てきた言葉が“巡査”。間が悪すぎる。

――馬鹿か、俺は。

格好悪い。
が、きちんと言い直したかった。
彼女がソジョ里に帰ってからずっと、巡査と警護官の距離が、もどかしくて仕方がなかったのだから。
「ユン・ボウォンさん」
言い直した声が掠れてないだろうか。
手が震えてないだろうか。
ボウォンにその震えが伝わってしまっていないだろうか。
緊張した時は息をゆっくり吐けと、新人時代に教わったことを急に思い出して、胸に詰まった息を逃がした。
それだって、格好悪い。
「好きです」
なんとか言い切った自分に、ボウォンはすぐに答えをくれた。
こちらに向けられたのは、警戒心の欠片もない、あのあどけない顔だ。
いきなりキスをされたのに、惚けた瞳で見つめてくる。
己はちゃんと好かれているじゃないかと、もう、照れるほかない。



ご飯を食べるより、このままがいい。
いきなり甘えられるとは思っていなかったから、こう言われて、面食らった。
ボウォンは、強い。
信念を貫く強さは、もしかしたら、己より上かもしれない。
事件の渦中も、一本芯の通った眼差しで、幾重にも立ちはだかる壁を睨みつけていた。
明瞭な声で、時には周りも叱咤しながら、てきぱきと前へ進んでいた。
それが、である。
彼女は、やっと聞こえるぐらいのか細い声で、夕食は食べなくていいです、と言った。
本人はしっかり者のつもりだし、それはその通りだろうけれど、目の前で俯いている、警察官の鎧を下ろしたボウォンと、一緒に戦っていたボウォンとのギャップに、またもノックダウンさせられた。




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【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/04/20 Mon. 22:35  tb: 0   コメント: 9

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 4  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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バス停から見る車道は、やけに明るかった。
さっき、ソウルは明るいとボウォンが言っていたが、今夜はとりわけて眩しい。
ヘッドライトがアスファルトの段差で揺れる度に、下へ視線を逃がして刺激をやり過ごす。
テギョンがちらりと隣を見やると、ボウォンは、心なし唇の端を引き上げて、通りを眺めていた。

――ああ、色が鮮明なんだ。

何本かソジョ里行きのバスを見送ったが、また、この停留所にバスが滑り込んだ。
大型のヘッドライトが放つ白色の光が強すぎて、思わず俯く。
今まで、光を感じなかったわけではない。
目に映るのは、曇った映像でもない。
モノクロのフィルターを薄く被せたように、なんとなく、色の薄い世界だった。
鈍い色合いの世界は、それでも色が付いていたから、見えている世界に違和感は感じなかった。



父が殺された上に、父がイ・ドンフィの身勝手な思惑の一端を担っているのだと知らされた時は、自棄になっていた。
幾多の容疑者扱いは、自棄に拍車をかけるのに、十分過ぎるほどの理由だった。
無条件の信頼こそが家族たる所以だと、父が亡くなって初めて知った。
だから、勢いを伴って、孤独が襲い来たのだ。
敵しかいない世界で、失うものは何もないからと突っ走り、自棄が過ぎて一度は匙を投げかけたテギョンを留まらせたのは、ボウォンだった。
もう一人、目の前の純粋な事実を捉まえようとしている人がいる。
初めは、それぐらいの認識だったと思う。
無条件の信頼。
ボウォンが己に向ける双眸の奥に、その光を見つけた。
己が彼女に向ける眼差しにも、また。
今夜二人の関係が始まったばかりなのに、内心こんなことを考えているとボウォンが知ったら、先走っていると呆れられそうだ。
もちろん、家族に対するそれとは別の種類の感情だと、自覚はあるけれど。
父を失った事実に、まだ、向き合えていない。
この左手が営みを止めた、室長の命にも。
でも、彼女が隣に座っているだけで、世界が無数の色に彩られている。



最終バスが来たら、ボウォンは帰ってしまう。
離れがたくて、彼女の手を握り締めた。
「僕も好きです」
「僕は、こうしていたいです」
どうにも格好がつかない返事しか出て来なくて、照れくさい。
けれど、恥ずかしがったり慌てたりと忙しいボウォンが見られるのだから、悪くない。
恋人同士らしい甘い空気も、思い過ごしではないはずだ。
二人の出会いは、美しい思い出話に成り得ない。
だからこそ、これからは、ボウォンとは、平凡な毎日を過ごしたかった。
朝起きたら「おはよう」を言い合い、向い合ってご飯を食べて、たまにキスをして。
「今度、ボウォンさんが作った料理を食べたいです」
「じゃあ、今度」
「はい、今度」
台所で湯気の上がる鍋を掻き混ぜるボウォンの後ろ姿や、まな板に包丁が当たる規則正しい音に耳を傾けながらまどろむ、夕方の暖かさ。
今日契約したばかりのボウォンのマンションに行けば、彼女がエプロン姿で出迎えてくれることもあるだろう。
脳裏には、馬鹿みたいに幸せな未来しか浮かばない。
やっぱり、ボウォンに先走っていると呆れられそうだ。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/05/08 Fri. 01:18  tb: 0   コメント: 8

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 5  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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テギョンは給湯室でコーヒーをすすりながら、携帯電話の着信を知らせる点滅を認めて、頬を緩めた。
テギョンの体は、早朝からの警護でそれなりに疲弊し、夕方の気だるい空気に飲み込まれそうだ。
だから、眠気覚ましのコーヒーで活を入れるべくこの給湯室にやって来た。
昼間、胸ポケットに仕舞いこんだ携帯電話が、震えていた。
着信の主はボウォンだとわかっていたが、勤務中に取り出すわけにもいかず、やっと今一息ついて、確かめられたのだ。
顔を上げると、紙コップに湯を注ぐサンギュの刺さるような視線とぶつかり、慌てて口元を引き締めたが、サンギュはどうやら、目が合っただけで済ますつもりはないらしい。
全くもって無駄な笑みを浮かべて、生き生きとこちらに寄ってくる。
「ユン巡査と付き合ってるんだよな?それ、いつも点滅してるよな」
「チームに余計なことを言うなよ」
この男に、二人の関係を知らせる必要はないと思う。
せっかく一人きりになれる場所を見つけたが、サンギュに絡まれるのなら、この場所にも用はない。
彼をひと睨みして、随行チームのオフィスに戻るべく背を向けた。
だが、彼は臆することを知らない男だ。
「もうユン巡査と付き合ってるって言っちゃった」
と肩を叩かれた。
弾みで、左手に持った紙コップの中の、褐色の液体が揺れる。
いや、己の怒りのせいか。
「おい」
「みんな、直接お前に聞けばいいのに、俺に探りを入れるんだよ。でも、間違ってないだろ」
サンギュは首をすくめると、論点のずれた言い訳をして給湯室を出て行った。
仕方なく答えたと言わんばかりのニュアンスだが、人好きのする笑顔で、積極的に触れ回ったのは想像に難くない。
ボウォンに花を贈った時も、仲間の祝福とからかいの言葉には、必ず「サンギュがバラした」との一言がくっついていた。
この上、他の警護官の意味深な笑顔は御免被りたい。
幸い廊下に人の気配はないから、今のうちにと、携帯電話のボウォンの名前をタップした。
「テギョンです。電話、ありがとう。こっちは、パク・サンギュが余計なことを言って、仲間にからかわれそうです。また電話します」
呼び出し音の後に切り替わった留守電に、短いメッセージを残して随行チームのオフィスへ戻り、ドアを開けて右足を部屋に踏み入れると、案の定、チームの仲間たちは男も女も一斉に顔を上げ、好奇の目を向けて来た。
「なんだ?」
「いきなり怒るなよ」
書類を捲る手をわざわざ止めて顔を上げた警護官が、へらへらと笑いながら言った。
不躾な視線を寄越しておいて、怒るなよ、はないだろう。
サンギュのみならず、なぜだか他人の恋愛に首を突っ込みたがる彼らは、いつも手に負えない。
酔っぱらいでもあるまいに、まともに返事をするのも馬鹿らしい。
テギョンの一挙手一投足が面白いと言いたげなオフィスの空気は辟易しているが、不幸にも今は暫し待機の身、耐え忍ぶより他に道はない。
テギョンは皆を無視してパソコンに向かった。



ボウォンの声を聞くと、警護の緊張で力と熱が篭った体が、柔らかくなる。
青瓦台の中ですら、すとんと眠れそうなぐらいだ。
不規則な日々に適応しなければ、この仕事は務まらない。
故に、食べられるときに食べる、そして眠れるときに眠る体を、意図的に作ってきた。
そうは言っても、毎日それが実行できるとは限らないわけで、なんとなく食欲が出なかったり、寝付きが悪かったりと、波のある毎日だ。
崩れ落ちるハム・ボンス警護室長の背中が、夢に出てくることもある。
室長の赤黒い血が、糊のようにコンクリートにこびりつくのを、為す術もなくただ眺める。
対照的に白く清らかなヤンジン里の慰霊碑の夢も、頻繁に見た。
慰霊碑の前で、室長と同じ色の血を流して倒れていた仲間たちの、空虚な瞳孔にうなされて、目が覚めるのだ。
荒い息のまま、ベッドサイドの携帯電話を震える手で手繰り寄せ、留守番電話のメッセージを再生した。
また電話する。それだけのメッセージだが、ボウォンの声は、夢を見ない平穏な睡眠に、テギョンを導いてくれた。
彼女をいっぱしに守るつもりでいて、まだ、守られている。
声を聞くと、体がぐにゃりと弛緩する。
それは彼女の腕の中で眠っているようで、いつも心地が良かった。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/05/14 Thu. 09:32  tb: 0   コメント: 2

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 6  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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毎日を、深刻に過ごすつもりはない。
己を可哀想がるほど、自己陶酔を好む思考の持ち主ではないと思うし、時間の無駄である。
何より、極端な悪を知っても朗らかに笑っているボウォンに、つられている。
彼女はいつも、電話の向こうで、可笑しそうにソジョ里の人々の日常の話をしている。
口下手なテギョンに、何かしらの話題を求めたことはなかったが、テギョンにも己を知って欲しいという人並みの欲求があるから、業務に差し障りがない程度に青瓦台の話もした。
しかし、ボウォンが楽しめる内容だとは思えない。
それでも、くすくすと笑っているボウォンが、愛おしかった。
彼女は何かにつけて強さをアピールするが、よく笑うところなんか、ちゃんと女の子だ。
もしかしたら、テギョンに強さをことごとく否定されて、警察官としての矜持が傷ついているのかも知れないが、これだけは譲れなかった。
恋人より非力な男なんて、あり得ないだろう。
テギョンにとって、それは最早、男ではない。
いよいよ引っ越しという当日も、ボウォンは無意味に腕力をアピールした。
本当に強かったら、急所を指で抑えられただけで簡単に気を失ったりしない。
いや、急所に指を入れられるなんて失態は、犯さない。
ボウォンは、それにも拘らず、会話にすらならない当たり前の話をしたいらしい。
両腕で力こぶを作る仕草をして、アピールに余念がない。
「僕より?」
瞬時に目を丸くしたボウォンを置いて、エレベーターに乗り込んだ。
やっと手の届く場所に越してきたのだ。
甘えられるだけ甘えて欲しいという、単純な男心を汲み取ってくれてもいいと思う。



いくら警護官の傍が危険だと言っても、明日にも悪事を働く輩が湧いて出てくるわけでなし、暫くは平穏な毎日を期待したい。
けれど、備えあれば憂いなし。
木刀は、随行チームの馴染みの店で調達した。
店長が、レジ台の引き出しから、手慣れた様子で領収書を取り出したが、個人的な買い物だからと断った。
個人的にしては本数が多かったからか、店長は訝しげな表情を隠そうとせず木刀を袋に詰めていたが、互いにプロだから、変な詮索はしてこなかった。
そんな風に、若干の不審を疑う視線に耐えて調達した木刀を、ボウォンは必要ないと言う。
つくづく、男心がわかっていない。
新居を楽しそうに飾り付けているボウォンからは、事件の渦中に見せた、張り詰めた目つきや、機敏な動きが影を潜めていて、少し緩慢な手付きで、ダンボールから取り出した雑貨を並べていた。
こんなに隙だらけで、暴行を働く男に太刀打ち出来ると思っているんだろうか。
世の中には、キム・ドジンじゃないが、おかしい人間はいくらだっている。
警察官だからと躊躇するのは、まだ善良な方だ。
その手の大胆不敵な不届き者に目をつけられたら、ひとたまりもないではないか。
婦女暴行を連想するのは、惚れた欲目じゃないと思う。
不動産屋の女性だって「可愛らしい」と褒めていた。
他にも、この部屋に押し入る強盗とか、ああ、警長だから犯罪者が逆恨みで付け狙うかも知れない。
前言撤回。
大統領警護官の周り云々の話を持ち出すまでもなく、これから始まる一人暮らしは危険だ。
「僕が一緒なら、木刀は持ってこない」
「やっぱり、テギョンさんの家に行けば良かった?」

――俺が何を考えているか知らないから、呑気に笑っていられるんだぞ。

さっき木刀を立て掛けたセミダブルのベッドが脳裏に浮かぶ。
キスすら一度しかしていない仲ではあるけれど、テギョンは、その手の繋がりの最終地点まで、とっくの昔に想像している。
毎日この体を沈める自宅のベッドで、ボウォンは幾晩かを過ごした。
彼女の寝姿はしっかり目に焼き付いているから、毛布の中で、文字通り何度も頭を抱える羽目になった。
警護官の制服を脱いで何気なく手に取ったシャツが、パジャマ代わりにボウォンに貸してやった物だと気付いて、妙な気分になったこともある。
あのシャツは、それ以来着ていない。
以前、思わず漏らしてしまった「君を守れそうにない」は、紛うことなき本心だった。




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【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/05/15 Fri. 08:42  tb: 0   コメント: 4

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 7  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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キスを焦るのは、高校生の小僧のようで情けないが、しかし、キスだけで満足できる小僧ではない。
隙あらば自宅に連れ帰ってしまおうかと、ボウォンの柔らかい唇を目の端に収めて思いを巡らすのも、度々である。
ソウルに越してくれば二人の時間も増えると目算していたが、完全に当てが外れた。
相も変わらず互いの生活はすれ違い、やっと会えても逢瀬として許される時間は中途半端で、食事を終わらせて夜風に当たったら、解散だ。
近くにいるはずが逢瀬もままならない状況は、遠距離よりも堪える。
この際食事なんかパスして、二人でシーツの海に潜り込んでしまいたいと思うのも、男としては自然な欲だろう。
けれども、男の自分と違うボウォンに、夕食なんか寝る前に掻き込んでしまえと告げるのは、内容が乱暴で憚られた。
彼女の仕事も体が資本だ。
仕事に理解のない男にはなりたくないし、数回のデートだけでベッドに押し倒すのも、あまりに節操がない。
出会いからここまでの、二人で過ごした時間の濃度を鑑みれば、己には体を欲する資格が充分あると思うけれど、客観的にこれまでのデートを俯瞰すると、欲だけの男と受け取られかねない気もする。
手を繋いで歩く夜道は、それなりに甘やかなムードだった。
互いにいい大人なのだから、キスを交わすぐらいなら自然な雰囲気だ。
だから実際、甘い雰囲気に誘われて、何度も彼女の唇を奪おうとした。
だが、しかし。

――また、これだ。

ボウォンは、照れくさい時に、唇を中に丸め込んでしまうのだ。そして、明らかに、この厄介な癖に気付いていない。
向い合っていざ腰を引き寄せよう、という瞬間に唇を隠されたら、手も足も出ないではないか。
夜でも賑やかなソウルの歩道で、人の波が切れた隙を狙ってボウォンの顔を覗きこめば、これである。
世の中には人目も憚らずいちゃつく輩も多いが、大々的に色呆けぶりを振りまく気にはなれず、案の定、次の瞬間にはすぐ傍をサラリーマンがすり抜けたりするから、告白の夜以来、唇にすら到達出来ない有り様だ。
別れ際のキスも、もちろん狙った。
だが、ボウォンのマンションのエントランスは、一際明るい。
彼女が「安全に配慮せよ」と煩かった己のアドバイスに従った結果だけに文句も言えないが、だから、おやすみのキスも叶わなかった。
ボウォンの爽やかな笑顔が、明るい照明も相まって、目に染みる。
少しは、こちらの熱を態度に出して仄めかすべきなのか。
もしかしたら、キスしたいとやきもきしているのは自分一人ではないかと疑いたくなるほど、ボウォンは屈託のない笑顔を振りまいている。
おやすみ、メールするね、のお決まりの言葉を紡ぐ唇は、異なる発音一つ一つに合わせて、柔らかく形を変える。
最後にぺろりと小さく出した舌を白い上下の歯が挟むに至っては、今すぐ噛み付きたいと思っている男の劣情を弄んでいるに等しい。

――くそっ。俺は、高校生か。

かくなる上は、ドライブデートしかない。
キスをしたら最後、後部座席にボウォンを押し倒しそうで、敢えて車を出すのを避けていたが、甘やかな触れ合いを欲する己を抑えるのも限界だ。
しかし、こんな幼く愚鈍な作戦を練っている矢先に、ボウォンが手料理を振る舞うとメールを寄越してくれた。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/05/28 Thu. 20:29  tb: 0   コメント: 8

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 8  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

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警護は、気が抜けない。
一瞬の隙が仇になる、その危険性は、新人時代から体に染み込んでいる。
だが、シフト交換で持ち場を離れた途端に、気が緩んだ。
それもこれも、明日に控えたボウォンの手料理のせいだ。
そして、ボウォンには言えないやましい考えも、むくむくと頭をもたげる。
引越しでは、彼女の部屋のベッドの移動を頼まれて、肌触りの良い綿のシーツでベッドを覆うところまで、手伝った。
セミダブルのそれは、自分のシングルベッドより広々としていた。
ボウォンを抱くのにちょうどいい。
ちらりと頭をよぎったが、それも段々ちらりではなくなってくる。
いや、でも最初は己のマンションだと、キスすらまともに進めない頭で、想像だけはますます具体的に進んでしまい、俺は欲だけの人間じゃないぞと、誰が見ているわけでもないのに、口の端を引き締めた。
寝る寝ないよりも、何と言っても、明日は手料理が待っているのである。
「もしかして、ニヤけてた?」
「おまえ、ここで何やってるんだよ。シフトが入ってるだろ」
「いや、俺のチームは、今日は終わり。それより、ニヤけてた?おまえは、笑ってるのか真顔か、わかりづらいからな」
最早、感心の域に達するパク・サンギュの嗅覚が、またもや反応したらしい。
サンギュのみぞおちに拳を軽く入れて、事務所のドアを抜ける。
懲りない男に、昔はニコニコしてて可愛かったのにと、未練たらく背中にパンチを見舞われた。
「気持ち悪い」
「おまえ、本当に昔は可愛かったんだよ」
「男に可愛いは、おかしいだろ」
サンギュの馬鹿な発言に文句を返しながら、一方で、ボウォンにも可愛いと思われてるんじゃないだろうかと、ここのところ男らしさを示せていない己に舌打ちをしたくなった。



警護官はいつ戻るか、言わない。
この宣言に、ボウォンは、文句ひとつ言わずに付き合ってくれている。
仲間の中には、素直にシフトを明かす者もいる。
もし不幸が起こっても、戻りたかったという意思を示してやったほうが、残された相手に対して誠実だと捉える向きもあるのだ。
父親とは、もともと生活時間が合わなかった。
男同士だ。互いに、スケジュールを細かく教えて欲しいとも思わなかった。
だから、今まで誰かに帰る時間を告げたことはないし、告げることの是非を真剣に考えてこなかった。
ボウォンは、本当は知りたいのだろう。
だが、彼女にこそ言えないのだ。
この身に何かが起こったら、ボウォンには、待っていて欲しくない。
明日に決まった手料理も、ボウォンのメールに候補の日が並んでいて、早番の日を、早番だとは言わずに選んだ。
けれど、その次の日は休みだと思わず明かしてしまったのは、己の弱さかもしれない。



翌日、仕事を終えて、制服姿のままボウォンの部屋に急いだ。
ドアを開けてくれた彼女は、エプロンをして微笑んでいた。
彼女の背後から、煮物の美味しそうな香りも漂っている。

――温かいな。

子供の頃、母親が好物を作ってテギョンの帰りを待ってくれるのが当然だと思っていた。
その頃の記憶は、すでに薄らいでいる。
父と二人きりになって、甘えてはいけないと子供なりに封印したのだ。
だから、懐かしさよりも、ずっと渇望していた温もりに触れられた嬉しさで、熱いものが胸にこみ上げた。
ボウォンのはにかんだ笑顔と優しい空気は、正しく、彼女の料理を食べたいと頼んだ時に、思い浮かべた光景だ。
ここで洒落た一言でも言えれば格好がつくが、うまい言い回しもそう簡単に出てくるもんじゃない。
口下手なんだから、花でも買ってくるんだったと、今更ながらに後悔する。
「おじゃまします」
決まり文句すら照れくさくて、喉から出たのは、無愛想な低い声だった。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/06/17 Wed. 19:34  tb: 0   コメント: 4

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 9  

3days(スリーデイズ)連載


ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

- - - - - - - -

ボウォンは、テギョンのジャケットをハンガーに掛けると、背中を押してテーブルにつくように促した。
襟元に指を入れたテギョンに、「ネクタイもハンガーにかける?」と、手のひらを見せて、ネクタイが乗せられるのを待っている。
そして、テギョンがネクタイを乗せ椅子に座るのを見届けてから、ジャケットを仕舞って戻ってきたボウォンは、てきぱきと料理をテーブルに並べ始めた。
「ちょっと、地味なの」
と、照れくさそうに笑いながら、お椀にご飯をよそっている。
煮物や汁物、炒め物がテーブルからはみ出さんばかりに並んだ。
ボウォンは地味だと言うが、テギョンにとってはこの上なく贅沢だ。
母が亡くなってから、いわゆる家庭の味と程遠い毎日を送って来た。
特段苦痛にも感じていなかったし、父と二人でキッチンに立ったものの、何がどうなったのかわからぬ、とても食べられないような恐ろしい代物が鍋の中で煮立っているのを見て、笑い転げる子供時代も、悪くはなかった。
けれど、亡くなった父も自分も、心の何処かで、こんな食卓を願っていたのだ。



食べるのに夢中で、美味しい、しか言っていない。
食事を終えると、すぐさまボウォンにソファーに導かれ、テギョンは改めてお礼を言うべく腰を下ろして姿勢を正したが、彼女は、そんなテギョンの食後の余韻に気づいているのかいないのか、早々とキッチンに戻ってしまった。
目の前には淹れたてのコーヒー。
熱々のそれを口に含みながら、テギョンは洗い場に立ったボウォンの後ろ姿を眺めた。
彼女は、腕まくりをして、皿洗いを始めた。
水が陶器にシンクへ零れていく音が、耳に心地よい。
皿同士がぶつかり合う、不規則なリズムも、安らげた。
エプロンの紐を腰のあたりでリボン結びにしている、ボウォンの後ろ姿を眺めながら、幸せだ、と思う。
美味しいとか幸せとか、さっきから単純な言葉しか思い浮かばないのだが。
ずっとこうしていたいな、このまま朝が来なければいいのにと、独りごちる。
カフェインをとったはずが、体から力が抜けるのは、やはりボウォンの威力に違いない。
家に帰らなくちゃと頭の端っこでわかっていながら、それでも瞼が落ちるまま、目を閉じた。



瞼の裏がなんとなく暗くなったと思ったら、唇に柔らかなものが触れた。
ボウォンのキスだ。
キスをしたいと気を揉みながらも機を逸し、挙句の果てにボウォンからキスをされるなんて、男としての面子が立たないが、けれど、それを上回る嬉しさで、にやけてしまう。
「ユン・ボウォン、警護官の隙を突くのか?命知らずだ」
つい冗談まで飛ばしてしまったが、ボウォンは冗談が耳に入っていないのか、目を見開いた。
「起きてたの?」
「今、起きた」
ボウォンは、バツが悪いと言わんばかりに唇を丸め込み、両目を泳がせている。
密かにキスをするつもりだったんだろう。
だが、これで起きなかったら、それこそ情けないじゃないか。男としても、警護官としても。
「僕に気絶させられたこと、忘れた?」
「私だって、警長だけど」
ボウォンは口答えをして、また唇を丸め込んだ。
目の縁も心なし赤くているのを見ると、ああもう、最初は自分のマンションでなどと紳士ぶった計画は止めにして、襲ってしまおうかと、不埒な考えに負けそうになる。
少なくとも、ここは道端じゃないから、唇を隠されてもいくらだって待てるし、いくらだってキスできるんだ。
そう思いながらボウォンの瞳に視線を合わせようとしたら、彼女は目を伏せて身を捩った。
逃がすものかと、ぐいと腰を引き寄せる。
その拍子に、額を覆う前髪が揺れた。
髪の隙間から、紫色の痣が覗いている。
「まだ痕が残ってる。女の子なのに。僕のせいだ」
「私が自分からやったことだから、そんなふうに考えないで。テギョンさんだって、ここ、まだ痛いでしょ?」
ボウォンの手が、恐る恐るといった風情で、銃弾が掠めて出来た左腕の傷を、シャツの上から覆った。
何を思い出したのか、泣きそうな双眸を向けられる。
ボウォンの涙を見たことはない。
気丈な性格だ。涙を流さずに泣くことも多いのかもしれない。
そう思うと、ますます愛しさが募る。
緩やかなカーブを描く額を、ゆっくりと撫でた。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説  テギョン×ボウォン 

2015/06/30 Tue. 03:00  tb: 0   コメント: 4

【スリーデイズ 二次小説】早くキスして - 最終話  

3days(スリーデイズ)連載

ドラマのネタバレを含んでいます。ドラマを未視聴の方は、ご注意下さい。

- - - - - - - -

額を撫でている間、ボウォンは唇を引っ込めたり戻したりを繰り返した。
この距離でそれをやるのか?と、心の中で突っ込まずにはいられない。
手を出しあぐねていた自分を棚に上げるようだが、ボウォンは相当な奥手なんだろう。
こっちが寝ている間にこっそりキスをして、素知らぬ顔を通すつもりだったのだから。
「するなら、僕が起きている時に」
通じると思って告げた言葉に、しかしボウォンは目を丸くした。
過去の男に猛烈に焼き餅を焼きそうだから、あえて詮索はしないけれど、互いに初めての恋愛じゃないのに、いちいちテンポが悪い。
だが、彼女がこの言葉に気を取られたおかげで、唇を丸め込む癖が治まった。
今しないで、いつキスをする。
ボウォンの腰を抱き込んでいた右腕に力を入れて、唇を合わせた。
久しぶりのボウォンの唇は温かかった。
このまま上下の唇の隙間を舌でなぞれば、すんなり奥まで分け入れるし、柔らかい舌を存分に味わえる。
だがそれをしたら最後、ボウォンを身ぐるみ剥がして、このソファーに細い体を押し付けてしまいそうだ。
ボウォンのきょとんとした態度は、ぎりぎりの自分へのブレーキだった。



唇を離す前から、ああ、名残惜しいと思う。
けれど、薄い皮膚を触れさせるだけのキスで、これ以上長く皮膚をくっつけているのも変だ。
一度離れて、また奪ってやろうと体を起こした。
「気付かなかったら、意味がない」
流石にこれで「起きている時にしろ」の真意も伝わっただろう。
ボウォンの耳が、仄かに赤く色付いた。
今のキスで照れているのか、秘密にするはずだったキスが知られて照れているのか。
忙しなかった唇の代わりに、今度は右手が騒がしい。
綺麗に整えられた前髪を、細い指がしきりに梳かしている。

――かわいい、けど。

もう一度キスをするつもりで体を離したのに、思わず踏みとどまる。
どうしたものかと、ボウォンが落ち着くのを待ってみたが、指は止まらず、頬はどんどん赤くなる。
この反応に、ものすごく罪悪感を刺激された。
変なことは言っていないはずだが、いじめっ子になった気分だ。
かっかと熱いボウォンに反して、さっきまでの、襲ってやろうかと息巻いていた気分も削がれた。
もちろん、やわらかな唇に今すぐ噛み付きたいし、寝室のセミダブルのベッドの存在を忘れたと言えば、嘘になるけれど。
最初がボウォンの部屋というのも、あんまり野獣すぎるから、自分のマンションに連れ帰ってしまいたいのが正直なところだ。
だが。
先は、長い。
もう一度キスをしたら、ボウォンはパンクするんじゃないだろうか。
これでも己は彼女より年上だ。
大人の余裕で自制する局面も、あって然るべき、である。
いや、こう頭の中で考えてること自体が、大人の余裕とかけ離れている。
とにかく、誤魔化すべく、ボウォンの頭を抱き寄せた。
丸まったタオルケットが二人の間に挟まっているせいで、ボウォンを抱きにくい。
「これが邪魔だ」
一度体を離したが、タオルケットを抜いたあと、ボウォンは素直に腕の中に収まった。
「もう少しここにいる」
明日の出動時間から逆算すると、睡眠が削られる時間が近づいてきた。
でも、腕の中のやわらかな体を、やっと訪れた甘い時間を、やすやすと手放してたまるものか。
ボウォンの頭をなでて、腹の奥に灯りそうな熱を誤魔化す。
これも、節度ある男としての行いである。

『大人の余裕』

ああ、クソ喰らえだ。次は容赦しないぞ、絶対に。




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【作品名】早くキスして

【テーマ】 3days(スリーデイズ)二次小説    テギョン×ボウォン 

2015/07/31 Fri. 14:37  tb: 0   コメント: 6

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