芙蓉の書-成均館スキャンダル屋根部屋のプリンス3days二次小説

JYJユチョン主演の韓国ドラマドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」「スリーデイズ(3days)」の二次小説ブログです。
『目次』、『小説のテーマ』または『ランキング』からお進み下さい。
また、大人小説(R18)の閲覧はご自身のご判断でお願い致します。

> 好きくらべ

好きくらべ 一覧

【成均館 二次小説】好きくらべ - 1(感謝企画)   

成均館スキャンダル連載

スンドルの驚き様は、彼に言わせると次のようになる。
「驚きすぎて、体が浮くかと思った」
驚きで体が浮くとは可笑しな表現だが、あの巨体を宙に浮かせるのは、強風でも無理だ。
彼なりの、文学的表現なのだろう。
事は、スンドルが思わず中二房の扉を開けてしまったことに始まった。
彼は奥様に言付けを頼まれて、成均館にいそいそとやって来た。
坊っちゃんは彼が身の回りの世話をするのを好まないし、最近はなんだか厄介払いをされている気もするから、こうして堂々と坊っちゃんに会いに来れる嬉しさで、気が緩んでいたことは、彼も素直に認めよう思う。
挨拶もなしに扉を開けてしまったことも、申し訳ないと思う。
しかし、扉を開けた瞬間は、目の前にに広がる光景に驚いて、一連の儀礼を破ったことなど頭からすっかり抜け落ちた。
彼の大切な坊っちゃんが、綺麗な学士様を抱きしめていたのだ。
スンドルだって年頃だ。
坊っちゃんと学士様の間に流れる、男同士の友情とは違う何かを、敏感に肌で感じとった。
学士様は、赤い唇をいつもよりも赤くして、スンドルを見つめた。
坊っちゃんも、唇が赤い。
坊っちゃんは、すぐに学士様を背中に隠して、拳で唇を覆った。
むやみに咳払いをする坊っちゃんに、スンドルは声をかけてみた。
「……坊っちゃん?」
「な、なんだ?」
「あの、その……」
スンドルは、彼の疑問をどう言葉にすればよいのかわからずに、あの、や、ええと、を繰り返した。
坊っちゃんは何も言わない。
綺麗な学士様は坊っちゃんの後ろから顔をのぞかせて、彼の様子を窺っている。
彼は意を決して口を開いた。
「坊っちゃんと学士様は、愛し合っているんですか」
沈黙が、スンドルの勘が間違ってはいないことを教えてくれた。
「ああ、坊っちゃん!女人に興味が無いことは知ってましたけど、ただの堅物だと思ってたのに!」
彼は、坊っちゃんへの愛情からくる失望を坊っちゃんにぶつけた。

ポドゥルが言ってたんですよ。
坊っちゃんが兵曹判書のお嬢様に破談にしてくれって頼んだ時に、人並みに妻を愛せないって嘘をついたって。
俺も嘘だと思ってたのに、本当だったんですか?
あと、貰冊房で、心に決めた人がいるって言ったんでしょ?
それもポドゥルから聞きました。
俺は嬉しかったんですよ?
やっと坊っちゃんも、人並みに女人に興味を持ってくれたって。
それなのに、それなのに……好きな相手がまさか男だったなんて知りたくなかったです!
学士様は、その辺の女人より綺麗ですけど、男ですよ!
ああ、坊っちゃん、目を覚まして下さい。
こんな男しかいないところにいるから、変になっちまったんです。
学士様と接吻までして……。
今すぐ、成均館を出ましょう。
学問なんて、坊っちゃんならどこでも出来ます!

「声が大きい」
しゃがみ込んで喚くスンドルの肩に、坊っちゃんが手をかけた。
綺麗な学士様は、ごめんね、と謝った。
「謝られたって、許しませんよ。きれいな顔で大切な坊っちゃんを誘惑しておいて。学士様を信じてたのに」
「違うんだ」
坊っちゃんは、スンドルを立たせた。
「ユニは、女人なんだ」
「ユニって誰です。俺は学士様と坊っちゃんの話をしてるんです」
「キム・ユンシク、本名はキム・ユニ。女人だ」
ああ、体が浮いてしまう。
スンドルは坊っちゃんの両腕にしがみついた。

- - - - - - - -
一ヶ月感謝企画 お題「女人姿のユニちゃんと、堂々とデート」のお話です。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/01 Tue. 19:43  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 2(感謝企画)   

成均館スキャンダル連載

スンドルの大切な坊っちゃんの提案で、とりあえず三人は輪になって床に座った。
体は浮かなかったが、代わりに涙が止めどなく溢れている彼に、坊っちゃんは根気強く説明した。
とは言え、スンドルにしてみれば、男だと思っていた人をいきなり女だと言われて、そうですか、と返事ができるわけがない。
「坊っちゃんには、学士様が女に見えてしまってるんです」
「そんなに僕を男色にしたいのか?」
「違いますよ」
スンドルは、綺麗な学士様を一瞥する。
「でも、学士様は立派な一物をお持ちなんでしょ?チョソンが夢中な“大物(テムル)”を」
口を尖らせて手をもじもじと組み合わせ、彼はいじけている。
「わきまえろ。女人に対して言って良い言葉じゃない」
「俺は学士様を恨みます」
スンドルは、彼と坊っちゃんにとっての諸悪の根源、綺麗な学士様を睨んだ。
それから、坊っちゃんに縋り付いて、おいおいと泣いた。
しかし坊っちゃんは、スンドルに冷たい。
膝に置いた手を上げて、スンドルの肩を抱くことすらしてくれない。
「信じられないのなら、それでもいい。ただ、今日見たことは、他言するな。ユニが女人だということは、僕しか知らないんだ」
「え?」
「君が僕の味方なら、黙っていてくれ」
現金なもので、坊っちゃんが最高機密を自分だけに打ち明けてくれたとわかった途端に、スンドルの涙は引っ込んだ。
「本当に、本当に、学士様は女人なんですか?」
「そうだ」
「やだなぁ。さっさと打ち明けてくれれば、大騒ぎしなかったのに」
結局、彼は笑顔をたたえて、中二房を後にした。



儒生が寝転んでも十分な程度には広さが確保されている房室は、普段なら狭さを感じない。
だが、巨体のスンドルがこの房室で占めていた容積は、なかなかのものだった。
ただでさえ大きな彼が、大仰に体を揺らして泣いたので、彼がいなくなった途端にこの中二房が妙に広く感じられた。
スンドルの大事な坊っちゃん……ソンジュンと、綺麗な学士様……ユニは、互いに目を合わせて苦笑した。
「でも、スンドルの言うことも最もだ。君はいつも男装しているから」
「スンドルを傷つけちゃったね」
「それはいいんだ。僕とスンドルの問題だ」
だけど。とソンジュンは目を伏せて照れくさそうに微笑んだ。
「女人の服を着た君を見たいな」
「見たこと、あるよね?」
「妓生の服?」
彼は彼女が頷いたのを認めて、普通の服、と付け足した。
「普通の服もあるよ。スゲチマだけど」
ユニは、巨擘として小科の試験場に赴いた彼女を追うソンジュンから逃れるために、反物屋に身を潜めたことを打ち明けた。
「あれは君だったのか?」
彼は、彼女をまじまじと見つめた。

――桃源郷?
あの時、ソンジュンの頭に、桃の花に誘われて桃源郷に迷い込んだ晋の男の話がよぎった。
天井から垂れ下がる薄布は、ひらひらと舞う桃の花びらが男を引き込んだように、ソンジュンを呼んでいる。
薄布が作る壁が、雑踏を極める表通りの物音を曇らせた。
鮮やかな色彩で目が眩み、彼の知覚も曇って行った。
そして最後に現れた一人の少女。
橙色のスゲチマの奥に辛うじて見える漆黒の瞳は、試験場でみた、長いまつげに縁取られた大きな瞳と同じ形のような気がした。
彼が探していたのは男だったはずなのに、少女に手を伸ばす。
ばちん!
強く頬を叩かれて、我に返った。

あの時、頬を叩いた少女がユニだったとは。
「君だとわかっていたら、もっとしっかり覚えておいたのに」
女人の姿を見せて欲しい。と頼むソンジュンに、ユニは首を横に振った。
彼女の服は裾が綻びていた。
それに、ごわごわとした綿や麻のチマなんて、彼は近くで見たことがないかもしれない。
今も、柔らかい絹を纏う彼と違い、父の色あせた麻の道袍(トポ)を仕立て直して着ているのだ。
男装なら我慢できるが、惨めな女人姿で彼の前に立ちたくない。
彼女は、道袍の右肩の虫食い穴を手の平で擦った。
「僕が服を準備したら、着てくれる?」
しかし、ソンジュンは諦めなかった。
彼女の不安を潰す形で頼む彼に押し切られて、ユニは仕方なく頷いた。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/04 Fri. 21:40  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 3(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

次の日、またスンドルがやって来た。今度は用もないのに。
ユニが彼を出迎えた時、ソンジュンは尊経閣に行っていた。
下手なことを屋外で口走って欲しくなくて、彼女はソンジュンの許可を待たずに、スンドルを中二房に招き入れる。
スンドルは昨日と同じ場所に腰を下ろして、巨体を揺らしながら嬉しそうに坊っちゃんを待った。
ほどなくして帰ってきたソンジュンは、扉を開けるなり眉をしかめた。
「女人だけの部屋に上がりこむとは、君は礼儀を知らないな」
「そう言ったって、すぐ慣れるもんじゃありませんよ。女人姿ならともかく儒生服じゃ」
「何しに来たんだ」
「坊っちゃんは本当に水臭いんだから。学士様が女人とわかったら、あとは馴れ初め話って決まってるんです」
ソンジュンはスンドルを無視して文机を出し、尊経閣で借りてきた書物を広げた。
ソンジュンがこういう態度に出た時は梃子でも動かないことを、スンドルはよく知っている。
だから彼は無理に食い下がることはせず、ユニに笑顔で問いかけた。
「それじゃあ、学士様に聞きます。月出山では、もう坊っちゃんとはそういう関係で?」
ユニは曖昧に笑い、それを勝手に肯定と受け取った彼は、嬉しそうに手を打った。
「じゃあ、あの恋の病の原因は、学士様だったんですか?」
これもユニは曖昧に笑うしかない。
本を読む振りをするソンジュンの眉間がどんどん深くなっているのが、彼女の座る場所からよく見えた。
ソンジュンは彼女に目配せをしたが、目配せをされても、彼女はスンドルを止めようがない。
彼女が肩をすくめたので、ソンジュンは今度は咳払いをした。
しかし、スンドルの言葉は淀みなく流れ続けた。
ユニはただ中途半端な笑みを浮かべているだけなのに、一向に気にならないらしい。
彼は、この手の話になると水を得た魚の如く得意になって話すのだ。
興奮のために、心なし頬を染めて。
彼女は、私よりずっと少女らしい感性の持ち主だ、と感心しながら中二房を見回した。
この、スンドルの乙女のような華やいだ興奮は、書物と男物の服しかないこの房室に、まるで似つかわしくない。
ソンジュンは、彼の性格そのままに、四角四面に荷物を整えている。
彼の好むものは小難しい書物だから、棚の中は茶色い塊が存在感を主張しているし、必要最小限の彼の服は暗色で統一されている。
二人の先輩ジェシンの棚の中も、少々荒れているが似たようなもので、茶色い塊と暗色の布がその容積を占めていた。
唯一華やいだ雰囲気をもたらすことを期待できそうな人物、要するにユニ自身だが、彼女の棚も言わずもがなだった。
小難しい書物は大好物だし、父のお下がりの道袍(トポ)はどれもくすんでいる。
貧乏暮らしには、汚れの目立たないくすんだ色の服が、都合がいいのだ。
それに、彼女が誰に恋の話を出来るだろう?
きゃっきゃと恋心打ち明けてもを、成均館でただ一人その話を聞いてやれる相手がソンジュンだから、なんだかちぐはぐなやり取りになってしまう。
だから、スンドルの作り出す淡く浮足立った空気は、中二房においてかなり異質だった。
「綺麗な学士様がいつも傍にいるから、兵曹判書のお嬢さんなんか霞んじゃったんですね。相談してくれたら、あんな騒動にならなかったのに」
スンドルは、ソンジュンが結納を寸前で取り止めたことを指して、舌打ちした。
「いい加減にしろ」
「坊っちゃん、これからはちゃんと言って下さいね。理由がわからなきゃ、対処のしようがないんですよ。旦那様に誤魔化すことも出来やしない」
「もう帰れ」
ソンジュンが肩に手を置くと、巨体は素直に従った。
また来ますね。とユニに手を振ることは忘れなかったが。



ソンジュンは、浮ついたスンドルを成均館で野放しにしたくはなかった。
成均館の門まで彼に付き合う。
門をくぐり泮村(パンチョン)に出てからも、スンドルはへらへらと笑っていたので、ソンジュンはそのまま一緒に歩いた。
通りは、忙しなく働く人々でごった返していた。
怠そうに通りの端に座り込んで、急ぐ通行人の邪魔になっている男たちもいる。
彼らは、真面目に動く泮村の住人に悪態をつかれ、怒鳴り返していた。
鼻につく肉の臭い、耳を覆いたくなるような汚い言葉の応酬。それに、人々が動く度に地面から舞い上がる砂埃。
それらが全て交じり合い、目も耳も鼻も膜を貼ったようにぼんやりとした。
ここならば、成均館の儒生とすれ違っても、こちらの話は聞こえないだろう。
ソンジュンは、口を開いた。
「そんなに僕に相談して欲しいなら、一つ頼みがある」
スンドルは嬉しそうにソンジュンに擦り寄る。
「女人の服を一揃い用意してくれ」
「坊っちゃんの好みは?何色ですか?」
ユニの服。と言わなくても、スンドルにはソンジュンが誰に着せたいのかすぐにわかった。
「……紺ではない色」
「儒生服と同じじゃ、白けますよね」
スンドルは、直接的な問いかけでは歯切れが悪いソンジュンに合わせて、質問を変えた。
「ところで、学士様の女人姿を見たことはあるんですか?」
「うん、まぁ……」
「その時は、何色でしたか?」
「……薄紅色」
薄紅色を身に纏ったユニが、どれほど強くソンジュンの心を打ったのか、スンドルにはお見通しだ。
ソンジュンは俯いているが、その横顔からはすっかり険しい様子が消え、彼が彼女の女人姿を回想しているのが手に取るようにわかる。
――素直に薄紅色と言えばいいのに。
「薄紅色ですね。わかりました。お任せ下さい」
スンドルが胸を叩いてソンジュンの依頼を請け負った時、二人は泮村の出口に到着した。
彼は、ソンジュンに別れを告げると、駆け足で北村(プクチョン)の屋敷に戻って行った。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/12 Sat. 10:12  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 4(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

スンドルは、ソンジュンに期日を設けられたわけではないが、三日後にはユニの服を用意した。
坊っちゃんの次の休みに間に合わせたいという、彼の坊っちゃんへの愛の現れだ。
そんなわけで、また成均館にやって来た彼は、庭を歩くソンジュンを捕まえて中二房の前まで引っ張った。
スンドルに、坊っちゃんの部屋に隠してありますから首尾よくやって下さいね、と報告されたソンジュンの頬が、一瞬緩む。
「ありがとう」
ソンジュンが礼を言った時には、既に彼の笑みは消えていたが、スンドルには十分だ。
坊っちゃんの役に立てたし、この一瞬の笑みが何よりの賛辞なのだ。
スンドルは、ぺこりとお辞儀をすると踵を返した。
彼の嬉しそうな背中を見送って、ソンジュンは中二房に入った。



ソンジュンは、この事を早くユニに伝えたかった。
だが、残念ながらここは中二房。ユニの他に、当然ジェシンがいる。
ソンジュンは、この先輩を邪険に扱うわけにも行かず、ただ黙々と書物を読んで機を伺った。
こんな時に限って、ジェシンは出掛ける素振りを見せない。
結局ソンジュンは、夕餉の鐘を合図に三人でぞろぞろと進士食堂(チンサシクタン)へ移る段階になってもきっかけが掴めず、食事が終わって中二房に帰る道すがらでやっと、ユニを捕まえることが出来た。
「話があるんだ」
彼は、東斎の裏に彼女を引き込み、人差し指を唇に当てながら、小声で告げた。
彼女も、彼が何の話をしたいのかわかったようで、同じように小さな声で、なぁに?と応える。
「この前約束した話だけど、スンドルが君の服を用意したんだ」
「うん」
「だから、今度の休みに、一緒に出掛けたいんだ」
「えっと、僕が、その服を着るんだよね?」
「そうだ」
ユニは、両手で頬を覆った。
ソンジュンにこの話を持ちかけられた時は現実味がなく渋々頷いたが、こうして具体的になると、胸が高鳴る。
彼女とて、二人で連れ立って出掛けることが、嫌なわけではなかった。
街を歩いている間は、キム・ユンシクとして生きている彼女の顔を見られないように長衣で全身を隠すことになるだろうが、それでも女人として彼の隣に立てるのだ。
それが、彼女にとって、どんなに嬉しいことか。
「だめ?」
「だめ、じゃない」
彼女は、頬に両手を当てたまま首を横に振った。
「良かった」
ソンジュンは、手を後ろで組んで、呟いた。
そうしないと、喜びで、今すぐ彼女を抱きしめてしまいそうだったのだ。
「でも、どこで着替えればいいのかな」
彼は、顔を上げて辺りを見回した。
見回してはみたが、彼も、ここで彼女が着替えられないことは重々承知だ。
「ここでは無理だよ」
彼女も、彼に付き合って、ぐるりと見回した。
それから、背伸びをして彼の耳元に顔を寄せた。

とっておきの場所があるから大丈夫。

秘密事を打ち明けた彼女の囁きは、彼の心を有頂天にした。
「とっておきの場所?」
彼は彼女の顔を覗きこんで、それはどこだと問う。
彼女は、また彼の耳元で、成均館に入学する前に着替えに使っていた水車小屋だと囁いた。
「そんなところで着替えて、危なくないのか?」
「うん、大丈夫。ずっと使ってたんだ」
彼女は右手で拳を作って、胸を打った。
「スンドルに、服を持って来るように頼んでくれない?」
「成均館に?」
彼女の大胆な提案に、彼は目を丸くする。
「服を布で包めば、コロ先輩は、女人の服だって絶対気付かないよ」
「そうだな」
同室生が、成均館一の無骨な先輩で助かった。二人は目を合わせて笑う。
「僕は、服を持って水車小屋に行くから、どこかで待ち合わせしよう」
「僕も水車小屋に行くよ」
「それはだめだよ。君みたいに立派な両班のお坊ちゃんが来たら、目立っちゃう」
待ち合わせの場所を考えておいてね?
彼女は、彼が初めにそうしたように唇に人差し指を当てて、花が咲いたように笑った。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/23 Wed. 14:45  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 5(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンは、初めから、二人で雲従街(ウンジョンガ)に出掛けると決めていた。
今回の外出で、ユニに何か買ってやりたかったからだ。
彼女の持ち物は、身に着けているものはもとより筆一本に至るまでおおよそ女人らしさはない。
学業の合間を縫って稼いだ写本代と成均館から支給される生活費は、全て母と弟に渡していて、彼女が自分のために何かを買う姿を見たこともなかった。
女人だと周囲に知られてはならず、また家で待つ家族の食事を確保せねばならないという、彼女の切迫した状況が、ユニの何もかもを質素な儒生たらんとさせていることは、ソンジュンも理解している。
それは、彼女が“そうあるべき”と望んでいることで、しかし同時に、“そうありたい”と望んでいないことだ。
二人は、時折連れ立って貰冊房へ足を運んでいたが、彼女はその道すがら、いつも反物や髪飾りを横目で気にしていた。
その間も二人で交わしている会話の内容は変わらない。
ほとんどは、書物の話だった。
二人の歩を進める速度も変わらなかった。
そんな時、彼は、彼女の話に付き合いながら、胸が締め付けられる思いがした。
「可愛いでしょ?」
彼女は、一度だけ、中二房でそっと手鏡を見せてくれたことがある。
背面に花模様があしらわれた、女人らしい綺麗な手鏡だった。
彼女は、それを彼に示すとすぐに棚の奥に押し込んで、ぺろりと舌を出してみせた。
その時は、あまりに不憫で、思わず彼女を抱きしめてしまった。

手鏡みたいに小さなものなら、受け取ってくれるだろうか。

彼は、どんな物が女人好みなのか、よくわらかない。
だから、雲従街で彼女に好きな物を選んでもらって、それを贈ってやりたかった。



いよいよ明日に成均館の休日が迫った日の午後、スンドルはソンジュンの言いつけ通りにユニの服を中二房に持って来た。
ジェシンは運良くヨンハの部屋に行っていて、中二房にはスンドルの荷物を不審がる者はいない。
ソンジュンは、スンドルも中二房に引き入れ、ユニに服を渡した。
「明日は、雲従街で待ち合わせをしよう」
「僕は着替えがあるから、君より早くここを出なくちゃ」
「スンドルも連れて行ってくれ」
ソンジュンの隣でスンドルが微笑みながら頷いた。
ユニはソンジュンの大げさな対応に口を尖らせる。
「一人で大丈夫だよ。大体あそこは、従者を連れてるほうが目立つよ」
「駄目だ」
「学士様、雲従街は人が多いんです。坊っちゃんとすぐに会えるとは限らないでしょ?」
「でも、今まで一人で平気だった。君が見つけられなくても、僕は見つけられるよ」
彼女は、ソンジュンの目を真っ直ぐに見て言った。
時折、彼女はソンジュンに自尊心をぶつける。
そんな時は、彼の自尊心もむくむくと湧き上がり、二人は互いに自尊心をぶつけあってしまうのだ。
二人の臨戦態勢を察知したスンドルが、ぱん、と手を打った。
彼にしてみれば、せっかく二人で外出をするのに、しかもその計画を話し合う場は甘美であるべきはずなのに、こんなことでぶつかり合うのは、ただ馬鹿馬鹿しい。
「学士様、長衣を頭からすっぽり被ったら足元だっておぼつかないし、視界が遮られて人探しどころじゃありませんよ」
「でも!」
「俺にも学士様が綺麗に着飾った姿を見せてくださいよ。ね?ここはスンドルの頼みを聞くと思って、連れて行って下さい」
ユニは、反論のしようがなく、渋々頷く。
「さあ、さあ。坊っちゃんも学士様も、笑って!」
スンドルの大きな手のひらが、二人の背中を叩いた。
「気安く触るな」
ソンジュンが、ユニの背中に触れたスンドルの手を掴む。
ソンジュンの必死な様子に、ユニは、弾けたように笑い出した。
「では、今日はお暇しますね。学士様、明日、ちゃんと俺のことを待っててくれなくちゃ、駄目ですよ?」
「うん、待っているよ」
ユニは満面の笑顔でスンドルに手を振る。
ソンジュンは、スンドルが中二房の扉を閉めるやいなや、渋い声を出した。
「スンドルの言うことなら、聞くんだな」
「君のことをどれだけ好きか知らないから、そんなことを言えるんだ」
ソンジュンの口元が一瞬緩む。
そして、詰問せんばかりの勢いで、身を乗り出して聞いた。
「どれだけ好きなんだ?」
「秘密」
ぷい、と横を向いてユニは答えた。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/03 Sun. 14:17  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 6(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

明くる日、ユニとスンドルは約束通り一緒に水車小屋に向かった。
二人は、ちょうど人一人分の間を開けて、進んでいた。
スンドルは、押しは強いが聞き分けは良い。
昨日、彼がいると目立ってしまうとユニが文句を言ったのを覚えていたのだ。
布に包まれた彼女の服も、彼女自身が持っている。
先頭を行く彼女は、振り返って彼がいるか確認した。
二人の間を横切る商人に目を奪われて、彼女は彼を見失った。
「大丈夫ですよ」
彼女の上の方から声がして、見上げると、やはり少し間隔をおいて立っている彼が手を振っていた。
彼女は、また前を向いて歩き出した。
強引な魚売りに腕を引っ張られそうになり、肩を落としてその腕を避けた。
魚売りを避けると、今度は、この通りで働く親に連れられてここへ来たものの、退屈しきって追いかけっこを始めた子どもたちと、何度もぶつかった。
ユニはもう一度スンドルを振り返り、微笑んだ。
彼も彼女も、雑踏には慣れている。
二人の日常は、この中にあったから。
だが、ソンジュンはどうだろう。
彼は彼女と一緒に来ると言っていたが、この雑踏に耐えられるとは思えない。
うら若い少女が、人寄せの為に甲高い叫び声を上げている。
忙しなく動く人々が土を踏みしめる音は絶え間なく耳を覆い、魚の生臭い刺激臭がいつまでも鼻に残った。

イ・ソンジュン庠儒(サンユ)は、人いきれに酔っちゃいそう。

彼女は、ソンジュンの渋い顔を想像して、くすくすと笑った。



雑踏を抜けて水車小屋に着くと、ユニはスンドルが頷くのを認めてから、中に入った。
蜘蛛の巣が張り、砂埃がいたるところに積もっているのは、彼女が頻繁にここを使っていた頃と変わりがない。
格子窓から漏れる光が小屋の隅々まで照らし、肌を晒すには明るすぎるほどだが、水瓶の水面に映る自分の姿を確認するにはちょうどよかった。
彼女は、籠が重ねられている台を軽く手で払い、持って来た包みをそこに乗せた。
ぱらりと包みの結び目をほどくと、柔らかい光沢を放つチョゴリとチマが現れた。
「あっ」
上に重ねられているチョゴリの下に手を潜り込ませ、チマを取り上げる。
それは、一度だけ彼の前で身にまとった妓生の衣装と同じ薄紅色だった。
ソンジュンは、彼女の妓生姿を覚えていてくれたのだろうか。
上質な絹で仕立てたれたこのチマは、あの妓生の衣装に負けず劣らず、華やかだ。
つるりとしたチマの表面を撫でながら、彼女は、独り言を言った。

あれから何も言ってくれないけど、気に入ってくれたのかな。

広げられた包みから真紅の細布(テンギ)が床に落ちて、彼女は、はっとする。
ここで物思いに浸っていては、時間がもったいない。
外ではスンドルが待っているし、何より、今彼女が心に思い浮かべているソンジュンと過ごす時間が減ってしまうのは、馬鹿みたいだ。
彼女は、もう一度、今度は丁寧に包みの中身を確認した。
細布の他に、小さな花の刺繍が刺してある足袋(ポソン)と、それとよく調和した、唐草模様が入った橙色の唐鞋(タンヘ)があった。
「履物なんか、男物でも良かったのに」
唐鞋を手に取り、彼女は呟いた。
けれど、彼女の発した言葉とは裏腹に、彼女の瞳は輝いていた。
彼女は、巾着袋を見つけて中の物を取り出す。
それは、ペッシテンギだった。
いつもヒョウンが頭の上に乗せていたのを思い出して、胸がちくりと傷んだが、頬を叩いてその考えを払った。
「お父様が亡くなってから、付けたことなかったな」
様々な種類の玉を翡翠の台座でまとめたペッシテンギは、ずっしりと重かった。
ヒョウンもそうだし、幼かった彼女自身も同様だが、少女たちは布地に刺繍を施しているペッシテンギをよく身につける。
これはきっと市場には出回っていないような高級品だ。
彼女は、きらきらと光るペッシテンギを手のひらに乗せて、感嘆のため息を漏らした。
それから急いで道袍(トポ)を抜いだ。
晒を緩めて深呼吸をすると、髷(サントゥ)を縛る紐も解いた。
きつく髷を結っていたせいで毛先が丸まった黒髪は、それでも豊かな艶を失なってはいない。
それは、白い肩の上で、彼女が動く度に弾んだ。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/07 Thu. 11:29  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 7(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

今まで袖を通したことがないほど、色鮮やかで軽く柔らかな絹の布地が、ユニの肌を滑った。
チョゴリは若草色で、薄紅色のチマと合わせると、より互いの可憐さが引き立った。
ユニは、包みを置いた台に寄りかかりながら今履いている足袋(ポソン)を脱いで、用意してもらった刺繍が刺してあるそれを履く。
いつもより、足がひと回り小さくなった気がした。
それから、水瓶の前に立って、髪を結った。
慣れた手つきで髪に細布を結びつけると、ペッシテンギをゆっくり持ち上げる。
髪の分け目がペッシテンギの丁度真ん中になるように、水瓶を覗き込みながら、慎重に頭に括りつけた。
水瓶に映る彼女は、華やかな衣に身を包んだ可憐な少女だ。
絹の光沢と明るい色合いで、彼女の顔色も冴えて見える。
上質な生地のおかげで、どこからみても両班のお嬢様らしい姿は、彼女の顔を緩ませた。
彼女は、そっと、頬に手を当てた。
化粧っけのない肌は、素朴だ。
成均館に化粧道具を置いてない彼女は、長衣(チャンオク)で顔を隠すのだから問題ないと思っていたが、豪華な衣と素朴な顔は、不釣り合いな気がした。
化粧道具と言っても、母のものを偶に借りたぐらいで、彼女は何も持っていないのだが。
せっかくソンジュンが心を砕いてお膳立てしてくれたのだから、せめて紅だけでもなんとかすれば良かった。
そう後悔しても、今となっては、後の祭りだ。
ユニは、ふう、と息を吐き出したが、しかし思い直した。
この残念な気持ちのまま一日を過ごしたら、もっとソンジュンをがっかりさせてしまう。

今日は、楽しまなくちゃ。

もう一度、彼女は水瓶を覗いた。
彼は、今日の女人姿を気に入ってくれるだろうか。
少しは可愛いと思ってくれるだろうか。
白粉一つ乗せていない顔を見られるのは恥ずかしいが、長衣を脱いで、チョゴリとチマだけの姿も見て欲しい。
そう、今日は楽しまなくてはならない日なのだ。
彼女は、包みの上に最後に残った深緑の長衣を頭からすっぽり被って、水車小屋の扉を開けた。



スンドルは、水車小屋のすぐ前で、ユニを待っていた。
ユニが出て来ると、彼は、大きな手のひらで盛んに拍手を送った。
「俺の見立ては、いかがですか?」
「凄くかわいいよ。ありがとう」
「へへへ。本当は、俺じゃなくて、反物屋の主人なんですけどね。でも、薄紅色は、坊っちゃんの指定です」
小屋の周りは、若木が覆い茂っていた。
水車の軋む音と水音、そして辺りを取り囲む木々が、二人の会話を外に漏らすことはないだろう。
「前に、坊っちゃんに女人姿を見せたことがありますよね?気に入ったみたいですよ」
「直接言ってくれればいいのに」
「坊っちゃんは、女心に鈍感ですからねぇ」
「スンドルは、本当に“坊っちゃん”のことをよくわかっているんだね」
スンドルは、ユニの使う言葉は相変わらず硬いと思った。
だが、長衣の奥から覗く瞳は、恋する少女のものだ。
彼女特有の意志の強そうな光を、その瞳の中に認めることは出来る。
ただ、今の彼女の瞳には、張り詰めた鋭さが見当たらないのだ。

ああ、坊っちゃんは、こんな学士様といつも一緒にいるんだな。

彼は、初めて、ユニが女人であることを心の奥底から納得した。
そして、坊っちゃんが何故彼女の為に必死になるのか。常に彼女を見つめ、彼女のために奔走し、身を挺して両腕で彼女を守る、その切実さを理解した。
「さあ、急ぎましょう」
スンドルは、歩き出した。
今度は彼が前になって、二人は進んだ。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/08 Fri. 17:30  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 8(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

雲従街に到着したソンジュンは、笠の縁を指で摘んで笠を少しばかり前に傾けた。
彼は、街行く人々の注目を集めていることを自覚していたし、それが煩わしかった。
商人の好奇心に満ちた視線や、両班の息女たちの思わせぶりな流し目に対して、気付かないふりをするぐらいしか対抗策はなく、しかし、彼のいつもの地味な藍色の快子(ケジャ)すら、彼を街に同化させてはくれなかった。
無遠慮な妓生など、聞えよがしに
「ねぇ、あそこの両班のお坊ちゃんをみて。藍色の快子が気品を引き立てているわ」
などど囁き合っている。

下品だ。

彼は、賤民だの両班だのと騒ぐ今の朝鮮に心底うんざりしている。
だが、ここを往来する人々の不躾な視線は、下品だと思った。
身分の上下ではない。
現に、今こちらを伺っている両班の息女たちは、それなりの教育を受けているはずだ。
雲従街の人混みは、だから、あまり近寄りたくはなかった。

ユニは、貧しくても気位が高い。

ソンジュンは、ユニを心に思い浮かべることで、機嫌を直した。
彼女と散策する場所として、目の前の人混みを見渡してみると、喧騒も悪くなかった。
女人たちがあれこれと装飾品を物色している。
あちらの店、こちらの店と彼女たちが渡り歩く様子は、後ろ姿だけで、彼女たちがこの場所を満喫していることがわかった。

ユニもあんな風に自由に歩くのだろうか。

元来物欲と無縁の彼にとって、喧騒が煩わしい雲従街より、部屋で静かに書物に相対するほうが有意義だ。
それが、街歩きに心躍らせる日が来ることになろうとは。
彼の頬が自然に緩む。
「あの方、笑ってる。声をかけてみたら?」
「大丈夫かしら」
「ほら、今よ!」
先ほどから色目を使っていた両班の息女の一団が、いつの間にか彼の近くまで寄っていた。
その中の一人が彼の前に飛び出して
「あの」
と声をかけた途端に、彼の顔は強張った。
お面のような、突然冷たく変化した視線を向けられた少女は、怖気づく。
彼は、言葉が続かない少女に軽く会釈をすると、その場で通りの向こうに目をやった。
そろそろ、ユニとスンドルが来る時間だった。
まだ傍にいる少女たちは、如何に彼に声をかけるか、小鳥の囀りのような小声で、しかし幾分けたたましく相談しあっている。
彼の耳にも、もちろん彼女たちの会話が入っていたが、彼は知らぬ振りをして、ユニとスンドルを探した。



「キム・ユニ」
目を皿にしてスンドルとユニを探していたソンジュンの視界に、ユニが飛び込んだ。
スンドルの肩越しに、深緑の長衣を着た女人の頭が見える。
大勢の人でごった返しているせいで落ち着いて観察できないが、あの背丈は彼女だ。
スンドルがまずソンジュンに気づき、手を振った。
ソンジュンが頷くと、スンドルは後ろを歩いているユニを彼の前に促す。
ソンジュンは二人が彼のところに到着するのを待ちきれずに、早足で彼らに近づいた。
彼は、ユニの顔を見るなり、満面の笑みを浮かべた。
「待った?」
「待ってない」
彼は、先程までの下品で不快な視線のことなど、すっかり忘れてしまった。
笠を被っていないために、いつもよりひと回り小さく見える彼女は、正しく女人だった。
長衣の奥から覗く漆黒の瞳はいつもと同じだが、装いのせいで、いつもよりも一層可憐に見えた。
口元は長衣で隠されているものの、彼の笑みにつられて彼女の目が細められたから、彼女も同じように微笑んでくれているのがわかる。
彼女の全身の姿は見えない。それでも彼の目には、彼女は雲従街にいる誰よりも可愛らしかった。
「本当に待ってないの?」
「うん、待ってない」
彼は、彼女の長衣を脱がせたくなって、後ろで組んだ両手を握りしめた。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/19 Tue. 17:51  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 9(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

スンドルと別れた二人は、雲従街をのんびりと歩き始めた。
ユニは
「ちょっと待ってね?」
とソンジュンに断って、あの店、この店と物色している。
彼は、長衣が彼女の全身を覆っているために、彼女と手を繋げないことが残念だった。
長衣の端から覗く指先を強引に掴めばいいのかもしれないが、品物を手に取るために、裾から出たり入ったりする指に自分の指を絡めるのは、少し難しかった。
「キム・ユニ、君の好きな物は見ないの?」
彼女は、先程から他の女人同様に目を輝かせている。
だが、彼女の手に取る物は、母親か弟が気に入りそうな品ばかりだった。
彼女の細い両肩に伸し掛かる重圧は、男物の衣と一緒に脱げるものではない。
ソンジュンが負うイ家繁栄の責務とは性格を異にするが、逃れられない義務を背負う息苦しさは変わらない。
彼は、何度となく味わった不憫さで、また胸が傷んだ。
もっとも、彼女はそんな重圧ではなく、豊かな愛情から、品々に引き寄せられているのだが。
店主に値段を聞きながら、商品を手に取ったり戻したりしている。
「あっちに、君が好きそうな品があるよ」
「あ、ほんとだ!」
ユニは、ソンジュンのことが目に入っていないのだろうか。
声をかけてくれた彼の顔を振り返らずに、彼の示した先に進んだ。
それが、なお一層可愛らしく、彼の目に映る。
「気に入ったものはある?」
「全部すてき」
赤色、黄色、橙色、桃色。
中二房では、布団ぐらいでしかお目にかかれない華やかな色で、店の台は埋まっていた。
彼女は、先ほど、母と弟の品をあれこれ見定めていた時とは違って、今は、一つずつ丁寧に手に取っている。
ことさら、黄色い花の刺繍が入った赤い細布(テンギ)を、じっくりと眺めていた。
「それが気に入った?」
「イ・ソンジュン様」
彼女が、普段よりも高めの声で、彼の名を呼んだ。
いつも、イ・ソンジュン!と元気よく彼を呼ぶ彼女が、イ・ソンジュン様、と言った。
それはもちろん、年頃の男女の間では至極当然のことなのだが、この二人にとっては、当然ではない。
彼は、目を丸くした。
胸の鼓動が耳まで届き、体中が、真っ赤に染まった。
「……イ・ソンジュン様」
彼女は、もう一度彼を呼んだが、先程より、小さな声だ。
彼の反応を見て、彼女自身も恥ずかしくなったのだ。
「うん」
「イ・ソンジュン様は、どんなものが好み?」
「どんなものも、似合うと思うよ」
道行く妓生を呼び込んでいた店主が、腰をかがめながら、どれでも試してくださいね、と初々しい二人に鏡を渡した。
商売上手の店主は、なにか買ってあげれば、男っぷりが上がりますよ。とソンジュンに耳打ちする。
ユニは、首を横に振った。
長衣を脱がなければ、細布を試すことは出来ない。
ここで顔を晒すことは避けたかった。
ソンジュンが、ユニの手から赤い細布を抜き取った。
「これだろう?」
袂から金を取り出そうとするソンジュンの手に、ユニの手が触れる。
「ありがとう。でも、貰えない」
「どうして?僕が君に贈りたいんだ」
「だって、こんなに立派なチマを準備してくれたのに」
彼もスンドルもはっきりと言っていないが、彼女が身にまとっている衣は、彼女のものだ。
他にこれを身に纏う女人はいないのだから。
ソンジュンと出会わなければ、一生袖を通すことはなかった、立派過ぎる衣。
これより他に、どんな贅沢を望むことが出来るだろうか。
ユニは、彼の右手に、自分の左手を絡めた。
「ね、お礼に、あっちで飴を買うわ。一緒に食べよう」
ぐい、と手を引っ張って、彼女は歩き出す。
ソンジュンは、触れたくてどぎまぎしていた彼女の手を握り返しながら、彼女に歩調を合わせた。

イ・ソンジュン様。

照れながら呼んでくれた、可愛らしいユニ。
お礼なんか、いらなかった。
小さな彼女が、彼の手を握っていつまでも笑ってくれれば、充分だった。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/24 Sun. 21:03  tb: 0   コメント: 2

【成均館 二次小説】好きくらべ - 10(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンの手を引いていたユニが、ぴたりと足を止めた。
彼女の目の先には、濃淡を揃えた紅皿が規則正しく並べられている。
彼女は、皿に何も描かれていない質素な紅皿を手のひらに乗せた。
「お嬢さん、その色でいいですか?」
皿の中には、若々しい桜色の紅が満たされていた。
この店を切り盛りしているらしい中年の女人が、ユニの手に乗っている紅を指で掬って、彼女の唇に広げてくれた。
「坊っちゃん、見てくださいな。可憐でいらっしゃいますよ」
ユニが長衣をそっと下へ引いた。
ソンジュンの目に映る、何度か触れたことのある瑞々しい唇は、淡く色づきより瑞々しさが増している。

妓生姿と一緒だ。

彼女、いや、“キム・ユンシク”が男であるにも関わらず惑わされてしまった、桜色の唇。
彼女が、柔らかな膨らみの間から、ちろちろと舌を覗かせてそこをなぞった時には、何度も喉を鳴らしてしまった。
そして、今も、唾がせり上がってくる。
彼女の唇の味を知ってしまったから、尚更だった。
彼女に触れる度に鼻孔をくすぐる甘い香りも、匂い立つが如く、鼻の奥を刺激する。
この距離では、わからないはずなのに。
そう、彼の皮膚の隅々まで、毛穴一つ一つに染み込んだ彼女の記憶が、そうさせているのだ。

ずっと、見ていたい。

ところが彼女は、すぐに長衣を戻して俯いてしまった。
彼は、誰もいなかったら己の唇を押し付けられたとか、彼女の裸体を見てみたいとか、次々に頭に浮かぶ邪な言葉を振り払った。
すぐにそちらに考えが行ってしまう男の性が、憎らしい。
「僕が買うよ」
彼が雲従街を選んだのは、彼女が持っていた手鏡がきっかけだった。
彼女が、中二房で、持ち物の中に手鏡があることをそっと確かめて、自らを励ましていると思ったから。

だったら、この紅も持っていればいい。

もちろん、紅で唇を赤く染めた彼女をこれからも見たいが、それよりも、女人であることを人知れず大切にしている彼女の心を、守ってやりたかった。
「貰えないわ」
「この大きさなら、中二房に置いていても、誰も気付かないよ」
「もう!そうじゃなくて」
二人は、細布を売っていた店先での会話と同じ押し問答を繰り返した。
「僕は買う」
ソンジュンが強引に紅皿を奪った。
「イ・ソンジュン様!お願い、聞いてってば」
ユニは、大きな声で彼を止める。
しかし、他愛のない押し問答は、ここで終わった。
突然、二人のよく知った声が、後ろから聞こえたのだ。
「カラン?カランじゃないか?」
ソンジュンは思わず振り帰り、そして、すぐにそれが失態だったことを悟った。
人を数人隔てた先で、ヨンハが手を振っていたのだ。
「おい、コロ。カランがいるぞ。おーい!」
ソンジュンの背は、両手を大きく動かして彼の気を引こうとするヨンハを拒絶した。
「おいってば。イ・ソンジュン様!」
ユニとソンジュンは、ぎょっとして、顔を見合わせる。

最悪だ。

先ほど彼女が上げた大きな声を、ヨンハに聞かれたらしい。
彼女は、ソンジュンの胸に顔を押し当てて、縮こまってしまった。
「この先で、スンドルが待っているんだ」
「え?」
「馬を連れているから、そこまで頑張って」
「馬!?」
ソンジュンは、右の肩の下にユニを抱き込み、左腕で人混みを掻き分けた。
絶対に逃げ切らなければ。
二人は、俯きながら、駈け出した。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/26 Tue. 15:48  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 11(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

人々は、各々が好きな方向に進む。
左から急ぎ足の男がぶつかって来たかと思えば、前からは乳飲み子を抱えた女人が迫ってくる。
ソンジュンは、左手で衝突を防ぎながら、中々前に進めないもどかしさに、苛立ちを覚えた。
この苛立ちを、一度、経験したことがある。
あどけない顔をして快子に名文を記し、懲りずに巨撃を続けていたユニ。
彼女を追って、柄にもなく全速力で走った。
弾けるように逃げ出した彼女を必死に追いかけたのは、決して彼女を責め立てるためではなかったが、あの時は、結局彼女を捕まえることが出来なかった。
しかし、今回は、諦めるわけにはいかない。
あんなに軽やかに逃げていた彼女が、今、自分の腕の中ので怯えているから。

僕に女人だと知られた時は、もっと堂々としていた。

渓谷で彼女が女人だと知った後、彼女は気まずそうに自分の元を去ろうとしたが、怯えてはいなかった。
彼女は、己をそれほど信頼してくれていたのだろう。
そして今、全身で自分に寄りかかっている。あんなに強かった彼女が。



ソンジュンは、横道にユニを引っ張りこんだ。
「ヨリム先輩の声も聞こえないし、もう大丈夫だ」
彼は、崩れてしまったユニの長衣を整えてやる。
ちらりと見えた彼女の唇の紅は、剥がれてしまっていた。
それでも充分魅力的だが、少し残念だ。
「コロ先輩も居たみたいだね?」
彼女の強張った体からは力が抜け、笑顔は柔らかかった。
対して、彼は、彼女を抱く腕を緩めてやるつもりはない。
「成均館に帰ったら、からかわれるだろうな」
「ヨリム先輩は、『カランが女人といた!』って今頃大騒ぎよ」
その女人は、彼に抱きしめられたまま声を上げて笑った。
ソンジュンは、今度は、妓生姿の彼女の腕を引いて逃げたあの夜を思い出した。
男同士で手をつないでしまった気恥ずかしさで、すぐに繋いだ手を離したあの夜。
今考えれば、あれは恋だった。

もう、手を繋いでいていいんだ。

彼は、両腕を緩める代わりに、彼女の左手を握った。
「あの角で、スンドルが待っているんだ。歩ける?」
「馬に乗るの?」
「うん、馬に乗って漢江に行こう」
ソンジュンの示した先で、こちらに気付いたスンドルが手を振っていた。
日差しを受けて、整えられた毛を輝かせている馬もいる。
ユニは、力強く彼女の手を引く彼の隣に並んだ。
「ね、私、馬に乗ったことないの」
「怖い?」
「うん、ちょっと」
「僕と一緒に乗るから、大丈夫だ」
彼女は小さく頷くと、彼を引っ張って先へ進んだ。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/29 Fri. 17:05  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 12(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ユニは、ソンジュンに両手で腰をぐっと掴んで体を持ち上げられて、顔を赤らめた。
馬によじ登ってやっと座ったら、今度は、続けて馬に跨った彼に背後から腰に腕を回されて、さらに顔を火照らせた。
長衣で顔が隠れていて、幸いだ。
「たぶん、またヨリム先輩に見られてしまうから、長衣でしっかり顔を隠していて」
「うん」
「君が落ちないように僕が支えているから、馬に捉まらなくても大丈夫だ」
「うん」
「……ヨリム先輩に捕まると厄介だから、少し急ぐよ」
そう言った直後に、あまり大声を出さない彼が、大きな声でイリャ!と掛け声をかけた。
それを合図に、馬は走りだす。
お気をつけて、と声をかけてくれたスンドルに返事をする隙はなかった。



スンドルが待っていた雲従街の路地裏は、意外なほどに人が少なかった。
だから、駆け足の馬を邪魔する者はない。
規則正しい馬の上下の律動にユニが慣れてきたら、腰に回ったソンジュンの腕の力が抜けた。
けれど、進む方向を変えるときに、彼女の体は後ろにぐっと引き寄せられた。
彼女の耳元で、馬と呼吸を合わせる為に時折短い息が吐き出され、力強い掛け声は低く響く。
初めての馬の上からの見晴らしは、想像以上に良かった。
だが、ユニはその眺望を楽しんではいない。
余裕が無いのだ。
背中に何度も当たるソンジュンの固い胸板や、耳元で絶えず聞こえる彼の熱っぽい息遣いは、彼女の心臓の鼓動を高めるには充分だった。
彼女にとって、彼はいつだって異性だ。
けれど、常に冷静に振る舞う君子としての男らしさに触れることは多々あっても、肉体的な男らしさを感じた経験は少なかった。

弓の練習の時も、どきどきしたけど。

彼女の弓の構えを直そうとする彼に背後から体を包まれて、心臓の鼓動が聞こえやしないかと心配になるほど緊張した。
今は、それ以上だ。
耳の先まで火照り、暑さと恥ずかしさでどうにかなりそうな反面、彼の気配をひとつとして逃すまいと五感が彼の動きに集中している。
彼女は、嬉しくて苦しくて、顔の前で掴んでいる長衣の縁をぎゅっと握りしめた。



「着いたよ」
ソンジュンは、俯いているユニの肩を叩いた。
馬に乗っている間中、腕の中で体を固くしていたユニ。
初めて乗ると言っていたから、やはり、怖かったのだろうか。
彼は、そんな彼女が少し可愛そうだったが、ヨンハに見つかってしまったこともあって、一気に漢江を目指した。
日が傾きかけていた。
人気がなくなった川辺は静寂が満ち始めた。
太陽が完全に落ちて月光が明瞭になる夜に比べて、昼と夜の曖昧さを併せ持つこの時間は、視覚が鈍る。
例え誰かが二人の姿を認めても、ゆっくりと広がる陰が、二人の姿を隠してくれるだろう。
もちろん、馬に跨る二人のように密着していれば、月明かりに頼るより、わずかでも太陽の光が届く今の方が、良く見えるのだが。
「長衣を脱いでくれないかな」
「……お化粧をしていないの。笑わないでね?」
「笑うものか」
即答はあまり効果がなかったようで、彼女はなかなか長衣を離さなかった。
彼は、馬を完全に止まらせてから、彼女の体を抱き締める。
「ユニ、駄目?」
「……駄目ではないけど」
「それなら、見せて欲しいんだ」
「うん」
彼は、腕の中で彼女が動いたので、体を元の位置に戻して彼女を開放した。
つるりと長衣が下へ落ちて肩で止まり、綺麗に結われた黒髪と小さな耳が、彼の眼下に現れた。
二つの小さな耳は、ほんの少し、赤く染まっているように見えた。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/09/01 Mon. 02:16  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 13(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ユニは、肩で止まった長衣を下へすとんと落とし、腰を少しひねって、ソンジュンにチマ姿を見せてくれた。
吸い込まれそうな大きな瞳と、紅で彩っていないくとも充分に愛らしい唇。
化粧を施していないから笑うだなんて、以ての外だ。
現に声すら出せないほど、引き込まれていると言うのに。
見知ったはずの彼女の首も、女人用のチョゴリを羽織ると、いつもより華奢に見える。
馬に跨っているせいで、より広がったチマは、彼女の少女らしさに輪をかけた。
成均館で巻き起こる現実に必死に食らいついているから、彼女は、利発と言えば聞こえはいいが、ともするときつい性格に見えてしまう時がある。
周りが彼女を男だと信じこむのは、きっとそのせいもあるのだろう。
けれど、チマを纏った彼女は、身を包むその絹のように、たおやかに、そこにいた。
可憐だとか、綺麗だとか。女人を賛美する言葉は、いくらでもある。
しかし彼は、どれも彼女に似つかわしくないような気がして、何も言えずに、ただ、見つめていた。



いつまでも何も言わずに真顔でユニを見つめるソンジュンは、彼女のチマ姿が気に入らなかったのだろうか。
ユニは、当初の不安が的中してしまった気がして、前に向き直った。
「少し進もう」
ソンジュンが何も指示を出さないから、馬はいつの間にか止まっていた。
二人は、漢江の川べりをゆっくり進む。
手綱を持たない彼の左腕が、再び彼女の腰に回った。
「ありがとう」
「うん」
容姿を褒める言葉はなく、逆にお礼を言われてしまって、ユニは益々自信をなくした。
君の女人姿は期待したものと違うけど、それはともかく、僕の願いを聞いてくれてありがとう。
そう聞こえるのだ。
対してソンジュンの目には、背を向けて「うん」しか言わない彼女の態度が、素っ気なく映る。
「僕ばっかり、君が好きだな」
「なんでそんなこと思うの?」
「チマを着た君を見て、もっと好きになったけど、でも、それは僕だけだ」
うじうじと愚痴を吐くのは全く君子らしくなくて、酷く間が抜けている。
一方で、素気ない彼女に文句の一つも言ってやりたい。
彼は間抜けな自分を恥ずかしく思いながら、同時に、言ってしまったけれどこれも真実だ、と投げやりな気分でいた。
ユニが振り向くと、彼は、ゆったりと流れる川に顔を向けて口を尖らせる。

チマを着た君を見て、もっと好きになった。

ユニの胸の鼓動が、一気に跳ね上がった。
スンドルが言っていた、坊っちゃんは女心に鈍感です、という言葉を思い出す。
彼は、女人を満足させられるような語彙を持っているわけではないし、機微を察して手を差し伸べるわけでもない。
ひたすらに、真正面から君が好きだと訴える。
容姿を褒めてくれないなどと些細な事で落胆するのは如何にも愚かだ。
彼が不器用に、けれど素直にぶつけてくる愛が全てなのに。
私も大好き。彼女はこの言葉の代わりにこう告げた。
「私がどれだけ好きか知らないくせにって、昨日言ったでしょ」
ソンジュンは目を丸くした。
「忘れたの?」
「忘れてない」
彼は元来、未解決の事柄に対して、執念深い。
だから、彼女の言い分は覚えていたが、あの時ははぐらかされてしまったし、今の彼女の様子を考慮に入れても、愛情が有り余っているのは自分の方だと思う。
「だけど!」
君は結構冷たいじゃないか。
彼は、言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
スンドルの警告が脳裏に響く。

坊っちゃん、いいですか。
学士様が反発しても、すぐに反論してはいけません。
黙って聞いてあげて下さい。
坊っちゃんが好きだから、突っかかってくるんですよ。
それが女心ってもんです。

今朝、スンドルは、ユニを迎えに来た時にソンジュンにそっと耳打ちをした。
ユニが水車小屋に一人で行くと言い張った時、スンドルが場を取り成したことを例にとって、女心を説く。
ソンジュンは、あまり納得がいかなかったが、黙って聞いた。
それが今、彼の脳裏に響いたのだ。
「私がいつから好きか、知ってる?」
ユニは、二人の間にある長衣を引っ張って、胸の前で抱いた。
それから、長衣を抱えながらソンジュンの左手をとり、親指の付け根を、さすった。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/09/08 Mon. 00:01  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 14(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

「……わからない」
「絶対に、私のほうが先に好きになった」
絶対に。先に。
この二語により、スンドルの警告はソンジュンの頭から露と消えた。
「そんなはずはない。僕が先だ」
結局、ソンジュンはユニに張り合ってしまう。
スンドルがいたら、不毛な争いだと言われそうだけれど、ソンジュンは、なんとなく譲れなかった。
ユニは、微笑みながらソンジュンを睨んでいる。
彼も、負けじとばかりに見つめ返した。



ユニが、ソンジュンの胸にもたれかかった。
「ここ、すごく痛そうだった」
先ほどから彼女が指でさすっている、彼の親指の付け根のことだ。
「大射礼のとき、明倫堂にも弓を持ち込んで、一生懸命練習していたでしょ?ここがすごく痛そうだった」
右肩を痛めて満身創痍だったソンジュンは、左腕で弓を引いてでも大射礼に出ようとした。
左腕を一から鍛えるために、講義の時も弓を離さなかった。
親指に通した木製の「かけ」に擦られて、その部分は血が滲む。
彼の眉根は苦痛で歪んでいたが、しかし、腕が止まることはなかった。
「君も、血だらけだった。僕のことが嫌にならなかったのか?あれは、女人に適した修練じゃない」
「その前に、どん底まで嫌いになってた」
頭の上から覗き込むソンジュンに、ユニは、ぺろりと舌を出してみせた。
彼は、ばつが悪そうに前方に目をやる。
「でも、嫌いになりきれなかったな。“庠儒(サンユ)イ・ソンジュン”の言うことは正しいし、格好良かったから」
彼の腕の中の少女が、くすくすと笑った。
「大射礼の時、今みたいに、後ろから構え方を教えてもらって、凄くどきどきしたの」
その時のことを思い出したのか、彼女は両手で頬を覆った。



「ね?私のほうが先に好きになったでしょ?」
この問いかけに、返事はなかった。
ユニが振り返って、ねぇねぇ、とソンジュンの胸を押すと、案の定、彼は憮然とした顔をした。
対して、彼と思いを通じ合わせてからこのかた、暗に愛情不足を仄めかされ続けた彼女は、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私のこと、いつから好きだった?」
憮然とした顔の持ち主は、渋々と口を開いた。
「妓生の君を見た時」
「ほら、私のほうが先!」
満足した彼女は、再び彼の腕の中に収まった。
「そもそも、僕が君を追いかけなければ、僕たちは始まらなかったじゃないか。そうだ、僕は科挙の時から、君が好きだ」
暫くだんまりを決め、負けを認めたかに見えたソンジュンは、突然口を開くと、矢継ぎ早に反論した。
ソンジュンに体を預けていたユニが起き上がって、負けじと彼の胸を叩く。
「それ、ずるい!私のことを男だと思ってたでしょ?友人が欲しかったんでしょ?」
「妓生の時だって、君を男だと思ってたし、友だと思ってた」
「そんなの認めないわ。私のほうが、ずーっと好きなんだから」
「いや、僕だ」
「私だってば」
「何とでも言え。僕のほうが、君が好きだ」
二人は、勢いのまま、僕だ私だと言い合った。
だがすぐに、この幸せな言い争いに行き先がないことを悟る。

『坊っちゃんが好きだから、突っかかってくるんですよ』

スンドルの助言は、正しかった。
だが、結局、ソンジュンは言い返してしまった。
つい口を挟んでしまう性格を、この先も変えられないだろう。
二人は、こうして張り合いながら、ずっと一緒にいるのかもしれない。
「もう少し川を見てから、帰ろうか」
ぽすん、とユニが彼の胸に身を預けた。
彼は、素直になった彼女の顎に、指をかける。
そして、幸せな接吻を落とした。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/09/14 Sun. 13:04  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】好きくらべ - 15(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンは、のんびりと馬を進めながら、市場での落胆を口にした。
「結局、紅を買えなかった」
「ありがとう。でも本当に貰えないわ」
「本当に?他に欲しいものはないのか?」
「うーん。あ、四庫全書(サゴチョンソ)を全部読みたい!」
「それは王でなければ無理だ」
ユニの答えに、ソンジュンは苦笑する。
四庫全書とは、清国が国中のあらゆる書物を集め、編さんしたものだ。
集められた書物の種類は三千種以上にも及ぶ。
今上王はこの四庫全書の輸入に努めていた。
即位する以前より輸入を促進していたこともあり、王にとっては、肝入りの政策だ。
四庫全書の書物群は、清国に限定したものではなく朝鮮や倭国、越南の漢文書も含まれている。
言わば古今東西の叡智が集結しているのだ。
そんな、国事として輸入しなければ手に入らないような書物を、ソンジュンが安々と買えるわけがない。
「僕が読みたいよ」
ユニがわざと無理を言って質問をかわしたことは、ソンジュンにもわかっていた。
これ以上彼が何を問うても、腕の中の少女は希望を言わないだろう。
だから、彼女の言う「四庫全書を読む」という夢の様な話に乗っかった。
「尊経閣に少し置いてあるよ」
王直下の成均館は、少しだけおこぼれに預かっていた。
ユニも気づいていたらしく、頷いている。
「でも、少しだけだよね。四庫全書がずらっと並んだ書庫があればいいのに」
「書物に夢中になって、出て来れなくなりそうだ」
「出て来れなくなるぐらいなら、本当に夢みたい」
長衣をぎゅっと抱きしめて、彼女は続けた。
「清国に行ったら、読めるのかな」
「どうかな。僕たちが読むなら、奎章閣に出仕するしかないだろうな」
「官吏かぁ……」
ユニは、ソンジュンからの質問に逃れるために四庫全書の話を出したくせに、読める手立てはないものかと真剣に考えているようだ。
「君は、結局、書物が好きなんだな」
「イ・ソンジュン様も好きでしょ?」
突然、イ・ソンジュン様と呼ばれて、彼の顔は瞬時に火照った。
市場で呼ばれた時もどぎまぎしたが、二人きりで呼ばれると威力も倍増だ。
加えて、市場を歩いていた時とは違って、彼女は長衣を羽織っていない。
ふっくらと盛り上がった頬、賢そうな瞳、それに白い歯が覗く瑞々しい唇が、彼の眼下にあった。
彼の胸と彼女の背中はくっついている。
四庫全書の話をしていた時も同じ姿勢だったが、胸の鼓動は自ずと高まった。
彼は、その音が彼女に伝わることを恐れて、何気なく体を離した。
それから、漢江の水面に視線を移し、うん、と返事をした。
「イ・ソンジュン様?」
彼の声は小さすぎて、至近距離にも関わらず彼女に届かなかったらしい。
しかし、彼は敢えてそのまま返事をしなかった。
「ねぇねぇ!イ・ソンジュン様!」
「聞いているよ」
くすくす笑いながらイ・ソンジュン様と繰り返す彼女への愛おしさが、気恥ずかしさに徐々に勝る。
己の読書好きなど、どうでも良かった。
彼の反応が楽しいらしい彼女が、可愛くて仕方がない。
彼は馬を止めて彼女を抱き締めた。
「帰りたくない」
「うん、そうだね」
腕の中のユニも、同じ気持ちだと答えてくれた。

- - - - - - - -
王が四庫全書の輸入を促進していたのは史実ですが、「成均館に一部ある」「奎章閣で働けば読める」は、soyteaの想像です。




↓ランキング参戦中です。画像をポチっと応援宜しくお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
拍手するLINEで送る


【作品名】好きくらべ

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/09/29 Mon. 22:37  tb: 0   コメント: 0

最新記事

目次

テーマ一覧

更新情報 配信中

プロフィール