芙蓉の書-成均館スキャンダル屋根部屋のプリンス3days二次小説

JYJユチョン主演の韓国ドラマドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」「スリーデイズ(3days)」の二次小説ブログです。
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手をつないで 一覧

【成均館 二次小説】手をつないで - 1(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンとユニは、大科に一発合格し、成均館を卒業した。
もちろんソンジュンは、大方の予想を裏切らず、壮元(首席)だった。
彼は、大科の前に、僕だって皆と同じで怖い、と珍しく青白い顔で漏らしていた。
しかし、ユニ以外誰もこの発言を取り合わなかったというのが、実際のところだ。
目出度く二人とも合格すると、続いてキム家の悩ましい事情に直面する必要に迫れれたのだが、合格の知らせを待ち構えていた王が、あっさりと権力で解決してしまった。
彼はまず、ユニの弟ユンシクに、キム・ユニョン(金允賢)という新しい名前を与え、キム家の戸籍を書き換えさせ、知り合いがいない土地のほうが煩わしくない、と新しい住居まで用意した。
処理を一任されたチョン博士が、ソンジュンとユニを成均館に呼び出し「ユニ、君の家の子供は、ユニ、ユンシク、ユニョンの三人になった」と伝えたのは、戸籍の書き換えが完了した後で、二人はあんぐりと口を開ける以外、すべき事は皆無だった。
かくして、ソンジュンは長女のユニと結婚し、ユニ扮するユンシクは、ソンジュンと共に成均館で後継者の育成に努め、ユンシク扮するユニョンは、新しい家で勉学に励んでいる。



実は、戸籍の書き換えよりも、夫婦が成均館で官職を得るという決定に至るまでが、一騒動だった。
正式に出仕する前に、まず、研修期間がある。
分館と言って成均館、承文院、校書館、三つのどこかに権知(研修生)として配属されるのだ。
ユニの分館は馴染みのある成均館で。
これは満場一致の意見だったので、つつが無く処理された。
その後もしばらく成均館で過ごすことを見越しての決定だった。
ソンジュンも成均館を割り当てられたので、権知の間は、平和だった。
問題は、分館が終わり、正式に官職に就く段階で起こった。
ソンジュンが成均館に行くと言い張ったのだ。
この若さで壮元で一発合格するなど、朝鮮王朝の歴史の中で、殆ど聞いたことがない。
それほどの秀才が、教育者として日々のんびり過ごすなんてことになれば、王やイ家だけの問題ではなく、両班を巻き込む大騒動になりかねない。
科挙の存在意義までもが疑われる、というものだ。
当然、王も、成均館ではなく、自身に近い奎章閣(*)に配属させるように、手を回した。
にも関わらず、ソンジュンは、周りの雑音を一切無視し堂々と固辞した。
傍にチョン博士がいるから奎章閣に行ってくれ、とユニが取り成したのに「君の大丈夫ほど当てにならないものはない」と取り付く島がない。
代わりにチョン博士が諌めれば、「僕は妻の安全に責任があります」と、まるでチョン博士では力不足だと言わんばかりに頑なだった。
「どこに出仕したって、男だらけだよ」
「だから、僕は君の行くところに行くと言っているんだ」
「これは命令だよ?希望なんて出せるわけないじゃないか。君に断る権利なんかないよ!」
ソンジュンは、相変わらず男言葉を話すユニを憎々しげに睨み「壮元なんか、ならなければ良かった」と吐き捨てた。



ソンジュンは、壮元を勝ち取るために、血の滲むような努力をした。
誰も取り合わなかった「僕だって怖い」も、押し寄せる不安の中で、やっと絞り出せた本音だった。
父、イ・ジョンムとの約束でユニを娶ることは決まっていたものの、父は、ユニが男装を解き、妻としてイ家を取り仕切ることを条件にしていた。
ユニはその条件を静かに受け入れて、朗らかに花嫁修業に入った。
ソンジュンが何度問うても、あなたの妻として生きる以上に幸せなことはこの世にない、と微笑むだけだ。
彼女が外に出れば、他の男の目が気になってやきもきするのは必至・・・寧ろ経験済みであるが、一日中彼女を閉じ込めるなど、ソンジュンには想像もできなかった。
男たちに混ざり、生き生きと論を戦わせる彼女しか、知らないからではないか。
そう自問もしたが、その姿を愛したのは、他でもない自分自身だ。

壮元で合格したら、好きにさせて欲しい。

いくら自慢の息子でも、初めての大科で壮元を勝ち取ることは不可能だ、そう判断した父は、快く承諾した。
我が子の華々しい快挙を祝福され、苦虫を噛み潰したように渋い顔で礼をして回った親は、こちらも、長い歴史の中で、この父ぐらいだろう。



ソンジュンは、最終的に王のもとに乗り込み直訴した。
「坊ちゃまが、お一人で宮殿に向かわれました」
スンドリから報告を受け、イ・ジョンムが肝を冷やす思いで駆けつけた時、王は大声で笑っていた。
ソンジュンが、成均館の配属でなければユニも出仕させない、と言い切ったからだ。
「イ・ソンジュンは、私を脅すのか」
イ・ジョンムは、あまりの出来事に言葉にならない声を漏らし、我が子の無礼を許してくれ、両班の説得は自分が責任をもって請け負うから、と平身低頭した。
「左議政、心配するな。そなたの息子を悪いようにはしない」
王は、彼を帰すと、ソンジュンに向き合った。

一年間だけだ。

それだけ告げて、ソンジュンが成均館の官職を得ることを、許してくれた。

*奎章閣・・・国王が信任する文官を集めて文献研究や政策立案などを行った官庁


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一ヶ月感謝企画アンケート 3位 「ソンジュン×ユニ 卒業後」の小説です。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/04 Tue. 19:49  tb: 1   コメント: 7

【成均館 二次小説】手をつないで 短歌  

成均館スキャンダル連載

二次の先輩、阿波の局様が、現在連載中の「手をつないで - 1」に、素敵な短歌を寄せてくださいました。
↓↓皆様、ぜひぜひご訪問を。
その姿を愛したのは、僕

ネタバレになるので詳細は避けますが、私の力量では至らなかった、ソンジュンの心を深く表現されていて、素晴らしすぎます。
阿波の局様、ありがとうございました。
soytea、嬉しすぎて興奮状態です。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 一ヶ月感謝企画  成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ 

2014/03/05 Wed. 20:36  tb: 0   コメント: 2

【成均館 二次小説】手をつないで - 2(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

博士として成均館に通いだしてから二ヶ月がたったある日の夕方、ソンジュンの父イ・ジョンムが、ユニだけを屋敷に呼びつけた。
ソンジュンは普段、彼女と共に帰途につくのだが、今日はやり残した仕事を処理するために、彼女だけ先に帰していた。

その隙に。

ジョンムにそんなつもりは毛頭ない。
嫁を呼び出すのに、息子の顔色を窺う親がどこにいるだろうか。
しかし、こうも頃合い良くユニを呼び出されては、「その隙に」という言葉が口をついて出てきても、致し方あるまい。
ソンジュンは帰宅するや否や、博士の服装、鶴氅衣(ハクチャンウィ)のまま、ユニの部屋に向かった。
「僕も一緒に行く」
「私だけ呼ばれてるの」
「父上は、納得していないんだ。何を言われるかわからない」
「一人で平気よ」
ソンジュンが部屋に入った時、ユニは彼の剣幕には目もくれず、少し伸びた髪を飾る細布(テンギ)を選んでいた。
若草色の細布にするか、桜色に刺繍の入ったものにするか、真剣に悩んでいる。
以前、チマ姿の彼女が、短い髪を恥ずかしがっていたことを、ソンジュンはよく憶えている。
博士の幞巾は、儒生時代の儒巾(ユゴン)のように透けないため、髷(サントゥ)が大きくなっても誰もわからない。
だから、伸ばし始めたのだろう。
そうと打ち明けられたわけではないが、満更でもなさそうな彼女が可愛らしくて、彼は彼女に接吻をした。
「気をつけて」
「まるで、お義父様が恐ろしい怪物みたいな言い様ね」
高潔な鶴氅衣が白粉で汚れてしまいそうで、ユニはソンジュンの腕からするりと抜け出した。



ユニがジョンムの部屋に到着すると、彼は息子の様子を聞き出したりせず、即座に要件を切り出した。
質実なところは、ソンジュンとそっくりだ。
何度も嫁としてジョンムと接しているうちに、彼に対するユニの警戒心は薄れていた。
我が父のことを思うと、無邪気に義父を慕う気にもなれない。しかし、ソンジュンがこの世に存在するのもまた、この義父に起因する。
こんな風に、こっそり夫に似ている部分を探るのは、愉快だった。

巻き毛のようにくるりと上を向いた睫毛も、そっくり。

ジョンムは、僅かに笑みを浮かべるユニを咎めて、話を続けた。
曰く、
『私が息子の成均館務めに協力したのは、奎章閣入りを阻止したかったからだ。
私が奎章閣撤廃のために動いていたのは、知っているだろう?
あの王は蕩平などと張り切っているが、私は認めていない。
それは、息子にも既に話してある。
相避制度(*1)があるから、お前は奎章閣入りにならないだろう。
だが、今上は何をしでかすかわからない。万が一辞令が来ても、決して受けるな。』



「それだけ?」
門の前で、ユニの帰宅を今か今かと待ち構えていたソンジュンは、ユニが輿から降りるなり、如何に責められたのか問い詰めたのだが、報告を聞いて拍子抜けしてしまった。
ユニが『あの王』のくだりは随分憎々しげだったと加えると、彼は珍しく声を出して笑った。
屋敷に向かって歩きながら、ユニは改めて礼を言った。
「ありがとう。本当は私が出仕したいって、わかってたんでしょう?」
「その話は何度も聞いた」
「正式な官職についてからは、まだ、ありがとうって言ってなかったから」
ユニは、ソンジュンの言う通り、何度も彼に感謝の言葉を尽くしてきたが、それでもまだ伝え足りなかった。
彼の英断がなければ、ユニは、一生家の中に閉じこもっていただろう。
一度知ってしまった新しい世界から去らねばならない、と聞かされた時、足が竦んだ。
その道・・・女人としての人生、に自分自身を乗せるという決断を下すことは、途方も無い勇気を要した。
左議政の息子に嫁ぎ、何不自由ない生活を約束され、何と言えば周囲を説き伏せられただろう。
成均館入学の時は、家族を養うという大義名分があった。
けれど、今は違う。
毎夜、それこそ『頭が割れるほど』考えたが、女が官職を得るべき理由なぞ、思い浮かばなかった。
いつか機会を見て、外に出よう。
そう誓ってみたものの、来るかもわからない「いつか」に期待すること自体、絶望的だった。
ユニは、内訓(ネフン)(*2)の文字を辿りながら、人知れず、すすり泣いた。
ソンジュンに導かれて入ったこの世界は、魅力的過ぎた。
初めは不本意だと彼に怒りをぶつけたが、すぐに虜になった。
一人で読書をしていた頃、書物はユニの好奇心を大いに刺激してくれたが、由緒正しい畏まった書物を敬う形で、読み進めているだけだった。
ところが、成均館で書を開くと、堅苦しい漢字の羅列すら、一字一字が春の野のように色を纏って踊りだし、彼女の思考は、渡り鳥の如く、自由にどこまでも遠く羽ばたいた。
官職を得たい。亡き父の夢見た朝鮮を作りたい。
それは、男たちの野望とは異なるものだ。
何故なら、この叡智に満ち溢れた世界が、彼女の命だったから。
去ることになれば、成長が止まってしまう。
世の中から置き去りにされる。
これほどの恐怖があるだろうか。
ソンジュンは、二度も彼女を恐怖の縁から救ってくれたのだ。
兵曹判書の妾にされそうだった時。そして、今。
「私のせいで、あんなに辛い大科になっちゃったじゃない」
「壮元を狙ったのは、僕の将来のためだ」
「嘘ばっかり」
嘘じゃない。ソンジュンは、照れくさそうにそっぽを向いた。

*1 相避制度・・・姻戚関係にある場合、同じ官庁に所属させない制度
*2 内訓・・・身分の高い女性の礼儀作法を教える書物





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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/06 Thu. 19:02  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 3(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ユニの指摘通り「将来のための壮元」は全くのでまかせだった。
壮元を勝ち取るという賭けは、当たれば相当な説得力を持ち得るが、確実性という面では、甚だ心許ない。
だから、万一に備え他の切り札も用意していた。
あの父のことだ。
先陣を切って蕩平組の仲間を募る、とでも言えば、折れただろう。
ソンジュンにとって、僻派(ピョクパ)(*)を牽引するなど論外で、現在の僻派の巨頭である父は、そのことを嫌というほど知っていた。
さりとて、王の本腰の蕩平策に組み入れられて、彼の手先になるつもりも皆無だった。
民に仕えたい。
人は高尚過ぎると笑うが、嘘偽りない、ソンジュンの信じる道だ。
「私に合わせて、成均館に来ちゃったわね。この先が心配だわ」
大司成(テサソン)が、いつになったら中央に帰れるのか!と事あるごとに嘆いているのを鑑みても、成均館の博士が出世から程遠い官職であることがわかる。
「僕は、成均館の博士に甘んじるつもりはないよ」
ソンジュンにも野心はあった。
それは、一般的な自己顕示欲とか権力欲とか、それらとは性質を異にするが、己の理想とする朝鮮を作るには、やはり、然るべき地位と力が必要だ。
漢城では、相避制度のことを忘れているのか、次の辞令で花の四人組が奎章閣に行くともっぱらの噂で、さながら規定事項のように、人々の口から口へ語られていた。
奎章閣は、今上が作った官庁で、その成り立ちから伺えるように、王に直結している。
そこで、選りすぐりの秀才たちが王の頭脳と成り代わり、文献研究や政策立案を行っていた。
だからこそ、イ・ジョンムは撤廃に躍起になっていたのだが。
彼は、絶対に奎章閣は許さないと息巻いている。
しかし、噂通りなら、ソンジュンだけでなく、ジェシンやヨンハにも同時期に辞令が飛ぶだろう。
ソンジュンは、父がなんと言おうと、相避制度という煩わしい法律を乗り越えて、二人で奎章閣に行くつもりだった。
権力の頂点に近いところで、政治に携わる。
これは、願ってもない機会だ。
「それに、成均館の博士も悪くない」

僕らが力をつけた時、今の儒生たちも出仕している。
彼らは出世頭だ。
彼らに慕われれば、将来、彼らは僕らの力になるだろう。
上と懇意になるばかりが政治じゃない。
だから、君も、成均館で君の理想を説くんだ。

ソンジュンは、ユニのために自分を犠牲にしたわけではないと、慎重に言葉を紡いだ。
因習や周りの思惑に押され、二人の人生がなんとなく過ぎていくのを、指を咥えて眺めるのは嫌だった。

僕は、諦めない。

「旦那様、奥様」
長話に音を上げたスンドリが、手を揉みながら、声をかけた。
二人は、ユニが輿を降りた時、すぐに夕餉を取るよう彼に言われてことを思い出し、話に夢中になりすぎて止まっていた足を、再び前へ動かした。



ソンジュンの妻となって半年経つが、ユニは未だに豪華な食事に慣れていなかった。
もっとも、この屋敷の主は誰もが認める廉潔な男だったから、両班としては随分質素な食事なのだが、慎ましい生活をしていた彼女には、目の前に並べられた数々の皿は十分豪華だった。
食事毎に、膳を運ぶ侍女に、今日もとても美味しいわ、と礼を言っている。
「そうだ。ユンシクに話があるんだ」
「それなら、明日、ここに呼ぶわね」
「いや、お義母上も心配だし、明日ふたりで出向こう。それより、今日一緒に読んだ『中庸章句』だけど・・・」
傍らで控えていたスンドリが、口を挟んだ。
「またですか!食事中に小難しい話はやめて下さい。もっと楽しく召し上がってくださいよ」
「僕らはこれが楽しいんだ」
スンドリが、やれやれと首を振った。
「博士様のお世話は退屈だ」
* 僻派・・・老論中心の派閥




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/07 Fri. 17:45  tb: 0   コメント: 2

【成均館 二次小説】手をつないで - 4(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

次の日は成均館の休日だったので、ソンジュンとユニは、ユニの実家を訪れた。
「結婚した娘が戻ってくるなんて、あってはならないことよ」
男装で来たから心配する必要はないと、ユニは母の手を握ったが、彼女は首を横に振るばかり。
ソンジュンがユニの後を引き取り、慰めるように言った。
「僕たちは、父と別に住んでいますから、イ家のことなら気になさらないで下さい」
そもそも、それがあってはならないことだと、ユニの母は頭を下げた。

イ家の長男が、継ぐべき屋敷を出たことは、まさしく伝統破りだった。
しかし、左議政の屋敷は要人の出入りが多く、また、親戚も頻繁に訪ねてきていたから、彼らに、嫁の弟ユンシクが屋敷に通っていると誤解されるのは、イ家、キム家両家にとって都合が悪かった。
対して、殆ど使われていなかったイ家の別宅へ、ましてや官吏になったばかりのソンジュンを訪ねてくる者は少ない。
苦肉の策だが、ユニの官職に付随したこの腹案は、珍しく父のイ・ジョンムも同意見だった。

ユニは、話題を変えるために、傍らのソンジュンの肩を叩いた。
何度も繰り返されたこの話題を続けることは不毛だ。母には申し訳ないが、何も変わらないのだから。
「ねぇ、イ・ソンジュン。ユンシクに話があるんでしょ?」
「まあ!!!」
卒倒しそうになる、と良く言うが、このとき母は本当に卒倒しかけた。
「そんな呼び方をして!左議政様に顔向け出来ないわ」
「じゃあ、イ博士・・・?」
ユニにとって、男装の時は、男同士の呼び方の方がしっくり来る。
しかし、すかさず母の怒号が飛んだ。
「旦那様よ!」
その剣幕に二人が後退りするほど、母は激怒した。
いつもならユニを庇うソンジュンも、圧倒されている。
「母さん、義兄上を中に入れてあげようよ」
見かねたユンシクが、母の肩を抱いて、台所に連れて行く。
ユニどころか何も悪くないソンジュンまで、居間に小さく腰掛けた。



ユンシクは義兄の訪問を心待ちにしていた。
二人の屋敷を訪ねる時もそうだが、ソンジュンは、いつでも、一人で学問を続けているユンシクの質問に快く答えた。
姉のお下がりの書巻は、彼女の端書きで真っ黒で、彼は姉の端書きが何を言わんとしているのかも教えてくれた。
そして、次は何を読むべきか示し、簡単な講釈も加える。
彼は、ユンシクとって義兄であると同時に師でもあった。
今日もユンシクは書物を用意して待ち構えていたのだが、義兄は、ひと通りの挨拶を終えると、ユンシクの将来について切り出した。
「月出山(ウォルチュルサン)にイ家馴染みの書院(ソウォン)(*)があるんだ。造詣が深い儒学者もいるし、風も水も清らだ。一人で書を読み進めても煮詰まってしまうから、そこで本格的に学問を深めないか」
「月出山?」
茶を卓子に並べていたユニが身を乗り出した。
「うん」
二人は何も言わず微笑み合う。
「姉さん、知ってるの?」
「うん」
姉は、義兄から視線を外さず、頷いた。
こんな風に、新婚の二人は時々前触れもなく微笑み合う。
身の置き場のないユンシクは、書物をパラパラとめくった。
台所仕事を終えた母も卓につくと、ソンジュンはもう一度ユンシクを説得した。
官吏としての将来を考えると、儒学者に付いて学ぶのは遅いぐらいだから、すぐに行った方がいい、というソンジュンの意見は一理あった。
ユンシクの体調は快方に向かっているが、成均館で学ぶのはまだ無理だ。
兵曹判書の罪が明るみになったのを契機に、寡婦であるユニの母には、温情と称し、生活費が支給されていたから、彼女の生活は心配ない。
結局、ソンジュンの世話になるのは気が引ける母と弟が、少し考える時間を持つ、という結論で落ち着いた。



その後も四人は楽しく過ごし、日が落ちてから帰途についた二人は、ソンジュンの部屋のある舎廊棟(サランチェ)の前で、立ち止まった。
「僕の部屋に来ないか?」
「明日の講義の準備があるの」
新米の二人は、比較的初歩の授業を割り当てられていた。
だから、さほど難しくないのだが、その手のものは、内容に反比例して説明が難解になりがちだ。
ユニは、儒生たちに、腹に落ちる講義をしてやりたかった。
「中二房が懐かしいわ」
「結婚した今より、あの頃のほうが一緒にいた気がするよ」
「ここにはコロ先輩とヨリム先輩みたいに、あなたを止める人がいないわね」
「それだけが幸いだ。あとで君の部屋に行くよ。湯を浴びておいて」
「準備をするって言ったでしょ?」
ユニが、仕事とソンジュンを天秤にかける時、ソンジュンは度々敗北感を味わった。
けれど、今夜のユニは、言葉とは裏腹に、口元に微笑を浮かべた。

*書院 両班などの資産家が先生を招き、主に自身の子や親戚を教育した場所






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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/09 Sun. 15:55  tb: 0   コメント: 2

【成均館 二次小説】手をつないで - 5(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンは、数冊の書物を持って内棟(アンチェ)の階段を上がった。
揺らめくろうそくの灯火が、障子扉に、寝転んでいるらしいユニの影を映していた。

余計な小細工をする必要はなかったな。

手元の書物に目を落とし、ソンジュンは微笑した。
彼は緩んだ頬を自覚し、口元を引き締めてから扉を開けた。
瞬間、彼は己の目を疑った。
確かにユニは布団に横たわっていた。ただし、書物を布団に持ち込んで。
「君は僕を生殺しにしたいんだな」
「私は明日の講義の予習をするって言ったはずよ?」
「いや、君は僕を苦しめるつもりだ」
彼女は、下着姿で、布団の上に俯せて本を読んでいた。
下着姿!
ソンジュンは、天井を仰ぎ見て呻いた。
「僕は何をすればいいんだ?」
「読書」
彼女の体を覆っているものは、上衣のソッチョゴリと下衣のソッチマだけで、ソッチマの下に身につけるべきソッパジ(*)も着ていない。
絹のソッチマは、腰の柔らかい曲線に添って、ユニの肌の上に垂れている。
絹よりも白くてつるりと艶のあるふくらはぎが、ソッチマから覗いていた。
彼女は、ソンジュンが隣で横になれるだけのゆとりを設けていたのだが、彼は床に寝転がって持ってきた本を開いた。
そらんじることが出来るほど気に入った一節も、今は味気ない漢字の羅列だ。
固い床板が肩甲骨にあたり、当然のことながら寝心地も悪い。
しかし、体の奥に生まれた熱をやり過ごすには、これぐらいが良かった。

何もせずにユニの隣に寝転んで読書なぞ、正気の沙汰ではない。
……正気なら読書は可能なのだから、正気の沙汰ではない、という表現は間違っているのか?
いや、些細な言い回しに頭を悩ませている事自体、どうかしている。

いよいよ、正常な思考さえ蝕まれ始めたようだ。
ソンジュンは、大きく息を吐きだした。
「君ほど酷い女人を僕は知らない。妖婦みたいに僕を煽って、聖人君子の如き振る舞いを求めるんだから」
「んー……」
「愚痴も聞いてくれないのか」
ソンジュンは、ユニの手のひらで踊らせされている事実が、無性に腹立たしくなった。
スンドリに「僕の想いがあり余る」とこぼしたことがある。
男としての欲が彼女のそれよりも強いことは重々承知だが、想いも依然、自分のほうが多いのだろうか。
もちろん、彼は、この関係を勝ち負けで推し量ることがいかに愚かか、理解している。
しかし、それは理屈だ。
こんなふうに弄ばれて、湧き上がる感情を否定することが、どうして出来ようか。
彼は起き上がり、彼女の手の中にある本を取り上げた。
「儒生たちが、君をどんな目で見ているか、知っているのか?」
言った瞬間、ソンジュンの顔が歪んだ。
失言だった。
二人の戯れには何ら関係のない、儒生への嫉妬。
彼らに笑顔を振りまく、ユニへの憤り。
醜い感情を露呈させてしまい、怒りが矛先を変え、ソンジュンに向かった。
彼は、次の言葉が続かず、黙り込む。
眉を寄せ、苦々しげに拳を握った。
「男同士じゃない」
「それでも……!」
ソンジュンは、ユニに馬乗りになった。
たまらなかった。
男だと信じてなお、彼は彼女を好きになったのだから。
ユニは、人差し指をソンジュンの唇にあてて、微笑んだ。
「でも、この中を知っているのは、イ博士だけでしょ?」
言いながら、肩を押すソンジュンの右手を、自分の膝の上に置く。

完敗だ、また。

彼女はいつもソンジュンが一番喜ぶことを言って、彼を籠絡する。
彼は、途端に口角が上がる自分の単純さを自覚した。
たった今、二人の愛情の深さを比較して悶えんばかりだったのに。
「待って、まだ、慣れなくて」
ソンジュンは、ユニに覆いかぶさったまま、数冊の書物に紛れ込ませていた、赤い装丁の本をたぐり寄せた。
「……ねぇ」
「何?」
上目遣いで口も尖らせたユニが、二人の間にある本をどけろと訴えているのは明白だ。
「いつも同じじゃ、君も飽き……痛っ!」
「普通でいいわよ!バカ!」
彼女は、ソンジュンの脛を蹴っ飛ばし、本を取り上げた。
「灯りを消して?」
今夜の月は明るい。
灯りがなくとも、ユニの白く柔らかい肌を存分に楽しめるだろう。
ソンジュンは、ろうそくの炎を吹き消した。

* ソッパジ……ズボン状の下着





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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/11 Tue. 20:03  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 6(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

曇り空からそろそろ雨が落ちてくるかと思われる、朝。
ヨンハが、二人の屋敷に使いを寄越した。
彼の使いの者はとても丁寧な口調だったが、要約すると『今夜、コロとお前らの家に行くから絶対に家にいろ』というヨンハらしい命令だった。
「夕餉を四人分用意してもらわないと」
ユニは、朝餉を運ぶ侍女に、食事の用意と客間の小舎廊(チャグンサラン)の準備も細々と指示した。
「布団に風を通せなくて、残念」
「朝まで付き合うのか」
「だって、雨が降るでしょ?先輩たち、帰るのが面倒だって言って寝ちゃうわよ」
二人の屋敷は、ジェシンとヨンハの、体の良い溜まり場になっていた。
一度、それぞれの勤めが終わった後、酒屋で落ち合ったことがある。
しかし、鶴氅衣(ハクチャンウィ)のソンジュンとユニ、具軍服(クグンボク)のジェシン、上から下まで綺羅びやかに光る商人のヨンハという組み合わせは、目立ち過ぎた。
周りの視線に辟易し、以来、ジェシンとヨンハは二人の屋敷に来るようになったのだ。



二人が成均館から戻った時には既に、ヨンハとジェシンは、既に小舎廊でくつろいでいた。
ソンジュンが彼らに一言挨拶をしてからユニの部屋に向うと、ユニは着替えを済ませ、髢(カチェ かもじ)を巻きつけているところだった。
「蝶の簪(コチ かんざし)をとってくれる?」
「細布(テンギ)をしないのか?」
「私が生娘の格好で殿方の前に出てもいいの?」
ソンジュンの母は、男装ばかりの娘時代を過ごしたユニを不憫に思い、家にいる時と私達に会いに来る時ぐらいは、これで髪を飾りなさい、と細布を幾つか持たせてくれた。
中には彼女自ら刺繍を刺してくれたものもあった。
本来、髪を下に垂らす髪型は未婚の女人だけに許されている。
ソンジュンの母は、ユニが若い娘らしいお洒落を禄に楽しめなかったことを、気に掛けてくれたのだった。
嫁の不適切な装いに眉を顰めそうなソンジュンの父も、未だ彼女が男として出仕しているという大事の前では、彼女の身なりなど些細な事らしく、苦言を呈することはなかった。
ソンジュンは、このことをすっかり忘れていた。
だが、確かに、ヨンハとジェシンの前で、婚前の格好をされるのは面白くない。
「……細布は禁止だ」
真紅のチマと緑のチョゴリ、幾つもの簪があしらわれた結い髪。
華やかで可愛らしい新妻が、鏡の中で微笑んでいる。
この姿を見せびらかしたいような、男装のままでいて欲しいような。ソンジュンの心中は、なんとなく、複雑だった。



ユニは、膳ではなく大きな座卓に食事を用意させていた。
儒生時代、四人で一つの卓を囲むことが多かった。
もう学士ではないが、あの頃のように気さくに盛り上がりたい。
それはジェシンやヨンハも変わらないようで、手酌の酒が進んでいた。
多弁なヨンハは、彼の商売について、扇子をくゆらせながら自慢し始めた。
「新しく売りだしたチマが好評で、妓生の流行になっているよ。テムル、今度お前にも持ってきてやろう」
「ありがとうございます。僕に似合うかなぁ……」
女人の姿をしていても、成均館時代のように、ついつい男言葉になってしまう。
ヨンハは、そんなユニを、すかさずからかった。
「おい、テムル。まさか、褥の中でもその口調じゃないよな?」
「先輩!」
盛大にむせたユニの背中を叩いてやりながら、ソンジュンは、抗議の声を上げた。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/19 Wed. 19:17  tb: 0   コメント: 2

【成均館 二次小説】手をつないで - 7(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

「テムルって呼ばれたら、男言葉になってしまいます」
「だって、お前はテムルだもん」
ヨンハは、明々白々だと言わんばかりに返す。
それから立ち上がると、ユニの後ろに回ってしゃがみ、彼女を抱きしめた。
「おー、テムルー、会いたかったぞー」
「二週間前もここに来たじゃないですか」
ユニもヨンハを避けるでもなく、抱きしめられたまま笑っている。
「冷たいこと言うなよ。俺たち、夫婦のように毎日一緒だったじゃないか」
「先輩、変な冗談はやめて下さい」
ソンジュンがユニからヨンハを引き剥がした。
「はいはい。本物の旦那様がお怒りだ」
君も逃げろ。ソンジュンがユニを睨む。
ユニは肩をすぼめて小さくなった。



「おい、これからお前、どうするんだ?」
ジェシンが、ユニに問いかけた。
一年はあっという間に過ぎるだろう。
女人であるユニがこの後どう生きていくのか、ジェシンもヨンハも気掛かりだった。
「僕、このまま成均館にいるのもいいな、って思うんです。いつまでも守ってもらってばっかりじゃ、独り立ち出来ないし」
「俺もさぁ、商人のままがいいんだけど、都の噂聞いたか?」
「四人とも奎章閣っていう噂か?」
噂話にはてんで興味のないジェシンが、珍しく即答した。
自分に関することは、流石に気になるらしい。
「それ。官吏の空きは少ないんだ。国に仕えたい奴らに、回せばいいのになぁ」
「相避制度があるから、僕は、呼ばれないと思いますよ」
ユニの発言に、ヨンハとジェシンは、ぽかん、と口を開けた。
ヨンハが腕を伸ばして、向かいに座るソンジュンとユニの顔を順番に扇子で突く。
「お前たち、気づいてないのか?既に、相避制度を破ってるぞ?」
「あ……」
ユニとソンジュンは、顔を見合わせた。
王の出した一年間という条件に気を取られていて、ソンジュンと“ユンシク”が姻戚にも関わらず成均館で働いているという事実に、気づいていなかったのだ。
「お前らが行くなら、俺も行く」
三人に酒を注ぎながら、ヨンハが言った。
「俺は行きたくねぇよ」
ジェシンはため息をつく。
その態度を咎めるかのように、ソンジュンが言った。
「そもそも、コロ先輩が武官をやっているのも、ヨリム先輩が商人をやっているのも、おかしいじゃないですか。大科に通ったのに」
ソンジュンが文句を言うのも最もだった。
三年に一度の大科に通るのは、わずか三十三人。
その選ばれし三十三人に入ったジェシンやヨンハが文官になりたがらないのは、言わば異常事態だ。
都で、次は四人一緒に奎章閣、と煩く噂されている理由の一つは、ここに起因する。
「俺はおかしくないぞ。家業を手伝って何が悪い」
「一年自由にしていいって言われたからだよ。お前らみたいに。面倒くせぇ、このまま官軍にいたいよ」
「ああ、そうだった。俺も一年って期限がついてたな、そういえば」
「先輩たちも奎章閣に行くべきです。朝鮮が今のままで良いと、思っていませんよね?」
ソンジュンの追求に、痛いところを突かれた二人は、目の前の煮物を口に入れて、誤魔化した。
揃って同じ行動をとってしまい、互いに顔を見合わせ苦笑いをする。
「辞令が出たら、今度は避けられないな」
「コロ、四人で奎章閣に出ることになったら、俺たちもここに住むぞ。成均館の頃みたいに、楽しくやろう」
「お断りします」
彼らは月に何度も来ていて、一緒に暮らすまでもない。
ヨンハに至っては、さっきユニに抱きついたという前科もある。
ソンジュンは、うんざりした顔でヨンハに即答した。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/03/26 Wed. 19:09  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 8(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

今夜は、ヨンハが一番初めに寝てしまった。
ソンジュンが、布団の準備のためにスンドリを呼ぼうとしたが、ジェシンが自分たちでやったほうが早いと、立ち上がる。
「俺たちは、客人らしいことを全くしてないからな」
ジェシンが、言い訳めいたことを言いながらヨンハをずるずると布団の上まで引きずったが、ヨンハは起きない。
「よく寝てる」
少し赤らんだ頬で、すうすうと気持ち良さ気に息を吐くヨンハを眺めながら、ユニはジェシンに礼を言った。
「先輩、いつも、ありがとうございます」
「……お前は、俺たちの“弟”だからな」
ジェシンは、ユニのことを弟と言った。
それは、ソンジュンへの配慮なのだろうか。
ジェシン自身のけじめなのだろうか。
それとも、皆と対等であろうとするユニの気持ちを汲んだものなのだろうか。

何れにせよ、先輩は僕よりも大人だ。

黙々と寝具の準備をしているソンジュンの背中に向かって、ジェシンは声をかける。
「おい、お前もだ」
思わぬ言葉に、ソンジュンは手を止めた。
「……ありがとうございます」
「あとは、いい。自分でやる」
ジェシンは、照れくさそうに二人を部屋の外へ追い出した。



ソンジュンの部屋は、既に布団が用意されていた。
スンドリが手を回したのだろう。気を利かせて、ユニの着替えも準備してくれたようだ。
「ユニ、さっきの話なんだけど」
ソンジュンは布団の上に座って、ユニに話しかけた。
彼は、ユニが言った「独り立ち」が気にかかっていた。
「僕は、君のことを守っていると思ったことはない」
「一緒に成均館に行くって、あんなに躍起になってたのに」
ソンジュンは、目を細めた。
「妻を男だらけのところにやって、平気な男がいるわけないだろう」
「あ、うん、そうだよね」
ユニが素直に認めたから、ソンジュンも表情を和らげる。
「でも、守っているつもりはないんだ」
彼女に教わったことは、沢山あった。
これから、教わりたいことも沢山ある。
彼女の目を通して見る朝鮮は、いつも、ソンジュンのそれと違っていたから。
「だから、君と一緒に働きたい」
二人は、手を握り合った。
自然、笑顔もこぼれる。
しかし、突然、ソンジュンは布団に滑りこんで、ユニに背中を向けた。
「あと、君は僕の妻だ」
「えっ!?」
いい雰囲気だったのに、いきなり背を向けられて、ユニは驚いた。
「いくらヨリム先輩でも、許せないことだってあるんだ」
さっき、ヨンハがユニを抱きしめたことを指しているのは明白だった。
成均館では、そんなこと日常茶飯事だった。
だから、ユニはちょっと意地悪を言ってしまう。
「狭量ね」
「狭量で悪かったな」
自覚はあるのだろう。彼は頭まですっぽりと布団を被ってしまった。
「入れてくれないの?」
ユニが布団に潜り込んでも、ソンジュンは姿勢を変えなかった。
彼女は、彼を後ろから抱きしめて、目を閉じた。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/04/09 Wed. 19:07  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 9(感謝企画)   

成均館スキャンダル連載

ユンシクが月出山の書院に行くことになった。
母親に別れを告げ、二人の屋敷に到着したユンシクは、所用で出掛けているソンジュンを舎廊房(サランバン)で待っていた。
「ユンシク、ごめんね」
弟に、別人として生きていく人生を強いてしまったことを、ユニはずっと悔やんでいた。
例え生きていくために必要だったとしても、弟の人生を奪う権利が、彼女にあるはずもない。
王の機転が、ユンシクが表舞台に立つ機会を与えてくれた。
しかし、彼女は、これで彼が彼自身の人生を謳歌出来る、と前向きに捉えられなかった。
ユンシクもまた、ユニの心配をしていた。
彼女は、ソンジュンと出会って一般的な幸福を手にしたが、ユンシクの目には、この幸福は、偶然の産物としか映っていない。
ユニが弟の名前を奪い後悔している傍らで、弟は、彼女の真っ当な人生を捨てざるを得ない選択を後押ししたことを、姉が結婚した今も、悔やんでいたのだ。
「戸籍の名前なんて、何の意味もないよ。けど、こうやって並べると、ユニョンが一番出世しそうじゃない?」
允熙(ユニ)、允植(ユンシク)、允賢(ユニョン)。
ユンシクは、三つの名前を並べて書いた。
「だから、もう心配しないで。油断してたら、“ユンシク”を追い越しちゃうからね」
「あら、イ・ソンジュンは?」
「義兄上は無理だよ」
「私はその義兄上の一番の好敵手だったのよ?」
「ふーん、成均館も、案外簡単に入れそうだな」
「生意気ね!」
ユニが成均館に入学してから、姉弟水入らずで笑い合うことは、殆どなかった。
ユンシクが月出山に行けば、また、しばらくは会えないだろう。
二人とも、大人への成長に伴うほろ苦さを感じながら、おしゃべりを続けた。



「楽しそうだね」
ソンジュンが帰ってきた。
一人っ子の彼は、姉弟の感覚がよくわからない。
ただ、静かに育った幼年期を振り返ると、仲睦まじく語り合う二人が、少し羨ましい。
「ユンシクは、生意気なの。イ・ソンジュンを超えるのも、簡単だって」
「姉さん、やめてよ。僕はそんなこと言ってないじゃないか」
「そうだっけ?」
ユニが彼女特有の茶目っ気を発揮していることはわかっていたが、ソンジュンは、その冗談にあわせてユンシクをからかった。
「それは楽しみだ」
「義兄上まで!」
ソンジュンの帰宅を知った侍女が、茶を運んできた。
それで少し場が静かになり、ユンシクは座位を正し、深く頭を下げた。

僕はきっかけを作っただけだ。あとは君次第だよ。

礼を言うユンシクに、ソンジュンはあまり多くを語らなかった。
真顔で「僕を追い越すんだろう?」と付け加えたから、それが冗談なのか本気なのか分からないユンシクは、曖昧な笑顔を作る。
ユニは、冗談よ、とユンシクに囁いて一緒に頭を下げた。
都から月出山は遠く、ユンシクにとって長くきつい旅になることは容易に想像できたので、ソンジュンは、彼のために馬と使用人を一人用意してくれていた。
彼が馬に乗って去った後、ユニは寂しそうな笑顔を浮かべて呟いた。
「ユンシク、大丈夫かな」
「女だてらに成均館に入った君の弟だ。心配することはない」
「私みたいな女の子が書院に来ればいいのに。お嫁さんとして、大歓迎よ」
「怖いことを言わないでくれ」
少しふざけて、元気が出たのだろう。彼女は舌を出して、ソンジュンの手を握った。

- - - - - - - -
ユニの名前を允姫としていましたが、wikipediaに允熙とありましたので、変更しました。(2014.07.05)




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/04/23 Wed. 17:27  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 10(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンは、ユニの口から将来の展望を聞いたことがない。
それは、無理からぬ事だった。
ただ男装をして生活するのであれば、想像もつくだろう。
現に、成均館時代の彼女は、ある程度将来の目処をつけていたのだ。
貧しい家を支えるために、男装を解かずに筆写の仕事を受け続けることも念頭にあったのかも知れないし、生活の保証と引き換えに、身売りのような結婚をするとも言っていた。
しかし、今のこの現状で、先の人生まで見通すのは難しい。
とりあえず成均館で官職を得たが、この後も中央での出仕が続くことは明白で、若い官吏が数年置きに配置換えをさせられることを考慮に入れると、先の予想が付かない。
男ならば、一生を国に捧げると腹を決めれば済むだろう。
しかし彼女は、どう足掻いても女人だった。
男と全く同じ人生を歩みたくても歩めないのだ。
イ家の跡継ぎについて、ソンジュンから何か言ったことはなかったが、ユニは考えているようだった。
彼は、彼女の、子供を産まなければならない境遇を思うと、いつも罪悪感に苛まされる。
ソンジュンは、左議政を輩出したイ家の長男だ。
彼が、子供……更に明言すれば息子を持たないという選択肢は、ありえなかった。
それはすなわち、ユニが適当な時期に官職を退かなければならない、という意味だ。
彼は、この強制性を伴う人生の決断を彼女に強いることが出来なかった。
何よりも、非凡な彼女が下野することを、彼は受け入れられなかった。



ある日、ユニは彼女の部屋である内房(アンバン)を訪れたソンジュンに、一冊の本を示した。
角は丸まり、表紙はぼろぼろだ。
皺が蜘蛛の巣のように走っている。
「儒生の頃に、ユ博士が私にくれたものなの」
ソンジュンがその本をぱらぱらと捲ってみると、紙は茶色に変色し、所々、墨が落ちたのであろう黒々とした染みが広がっていた。
ユニは、成均館に入ってまだ日も浅い頃、ユ博士が彼女を見込んでこの本を譲ってくれたことを、嬉しそうにソンジュンに告げた。
ユ博士も彼の師からこの本を譲り受けた、と言う。
彼女が、自分には勿体無いないと辞すると、ユ博士は「将来君の弟子に譲りなさい」と彼女に持ち帰るよう促したと聞いて、ソンジュンは、とても誇らしい気分になった。
同時に、今までこの話を知らなかったことが、残念でもある。
「初耳だ」
「中二房では言い難かったの」
成均館を出たら表舞台から退くつもりでいた彼女にとって、この本を譲る弟子が現れるはずがなかった。
と言っても彼女を取り巻く環境を思い悲嘆にくれていたわけではない。
ユ博士の期待がただ嬉しかった。
ユ博士は、ユニが優秀だからこの本を渡したのだろうが、それだけではない。
優秀であることは、大前提だ。
その上で彼は、成均館の精神を体現し、また後世に引き継ぐに値する人物として、彼女を見込んだのだ。
「あの頃は僕が言っても信じてなかったけど、やっぱり君は、ユ博士も認めるぐらい、才能があったじゃないか」
「やり方が強引だったんだもの」
「君は僕から逃げ回っていた。あれぐらい強引じゃなきゃ、二度と会えなかったよ」
ソンジュンは、二人の出会いについて冗談を言いながら、「やはり、彼女を官職から追いやって、この狭い屋敷に繋ぎ止めていいわけがない」と、心の奥底で決意した。
ところが、ユニの口から出て来た言葉は、彼の決意の逆を行くものだった。

私、将来は、子どもを産まなきゃね。

ソンジュンは、イ家に彼しか子供がいないことへの恨み事や、彼女のイ家の嫁としての立場は彼がなんとか処理するつもりだということを、矢継ぎ早にまくし立てた。
しかし彼の剣幕とは対照的に、彼女はあっけらかんと言い放った。
「私が女人だってこと、ちゃんと覚えてる?」
「そんなの、当たり前だろう」
「じゃあ、子供を生むのも自然よね?」
「君は、無理をしているんだ」
「無理してない」
「いや、絶対無理している」
「イ・ソンジュン!あなたの欠点は、女心が読めないことよ!」
ソンジュンは、女心云々よりも、もはや話の展開について行けなかった。
確か、ユ博士が彼女に託した本の話をしていたはずだ。
それが、何故、今、子供を産む是非について議論しているのか。
彼は、眉根を寄せて腕組みをした。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/06/12 Thu. 21:03  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 11(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

話を戻すとね。
ユニは、不機嫌なソンジュンに微笑んだ。
「この本を譲るに値する青年に出会ったら、ユ博士が私に勇気をくれたように、その人を励ましてあげたいの」
彼女はそう言いながら、表紙に走った皺を伸ばすように手を動かした。
思えば、成均館の入学から、彼女の人生は、ずっと成り行きで進んできた。
ソンジュンの決断。
王やチョン博士の許し。
黙ると言う形で、背中を見守り続けてくれた母。
己の人生を託してくれた弟。
彼らの助けなくては、ここまで来れなかった。
傍から見れば成り行きまかせだが、成り行きと言ったら、罰が当たるだろう。
彼女自身の選択がもたらした人生ではなかったが、常に誰かが彼女の代わりに最善の選択をしてくれた。
彼女の意思は、ソンジュンの選択に乗って「成均館を続ける」と決めたことぐらいかも知れない。
だからこそ、彼女は彼女自身の人生を無駄にしたくはなかった。
同時に、彼女は自分が女人である現実を、ずっと突きつけられて来た。
子を成す義務ではない。
ソンジュンはもちろん、ジェシンもヨリムも、朝鮮の未来を見据えている。
だが彼女は、彼らのように広い展望をどうしても持てないのだ。
金縢之詞探しの密命が下った時にソンジュンはそんな彼女を励ましてくれたが、結局、この点に於いては変われなかった。
南人の、自分自身ではどうしようもない環境への不満は、常に燻ぶっている。
しかし、どんな方法を取れば良き朝鮮になるのかなど、今も思い浮かばないのだ。
父が夢見た新しい朝鮮は、女人も政治に参加する世の中なのだろうか。
女人が世の中で活躍すれば、それがすなわち、理想の朝鮮なのだろうか。

こんなにも、その世界を見てみたいと思うのに、どんな世界か見当もつかないなんて。

彼女は、男女の別なんかくだらないと思っていたが、自らの限界がそこに起因する気がするのだ。
「やっぱり、私は女人なのよ。毎日とても楽しいけど、成すべき責務がわからないの」
「僕と違って、君は考え始めてから日が浅い。そのうち、君の理想の朝鮮が見えてくるはずだ」
才能を発揮することと夢を持たないことが矛盾しないことを、ソンジュンはよくわかっている。
彼は、固く組んでいた腕を解いて、ユニを励ました。
彼女は、そうなれればいいな、と笑って、だからこの本を誰かに譲りたいの、と言った。
それが、彼女にとって、彼女を守り続けている人々への恩返しだった。
「前に、成均館の儒生に理想を説けばいいって言ってくれたでしょう?」
「うん。君はそうしているよ。今でも」
「私ね、それを教えてもらった時に、世界が開けた気がしたの。理想の朝鮮はわからないけど、学問の解釈は、知らず知らずのうちに、私の考えが出てると思うから」
「君は、初めから君らしい意見を述べていたよ。小科の時に、僕の快子(ケジャ)に何を書いたか忘れたのか?」
「あれは、そんな大きな話じゃないでしょ。堅物イ・ソンジュンへの皮肉よ」
「それでも名文だった。君は今でも十分に理想を説いているよ」
彼女は、大きな夢を持てない自身の小ささに悩んでいる。
だが、彼女の声が届き、世の中を肌で感じられる彼女の居場所。そこで役に立てることが、彼女にとって新しい発見で、同時に喜びに満ちた生活だった。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/09 Wed. 19:56  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 12(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

ソンジュンはイ家の一人息子として、幼い頃から学問と政治を結びつけた教育を受けて来た。
対してユニは、純粋に学問の面白さに夢中になっていたのだろう。
成均館は言うまでもなく政治学を学ぶところだし、儒教そのものが政治学ではあるが、しかし現実を分析してそこに学問を組み込むという思考能力は、数年で身につくものではない。
その訓練が不十分な彼女に、夢を持てと言い続けたのは、酷だったのか。

ユニのいう通り、彼女は女人だ。

ソンジュンは、これまでも彼女のことを男と思ったことはなかった。
だがそれは、彼が求めている、互いに愛し合う対象としての女人だったのかも知れない。
彼女のために良かれと思って動いてきたが、希望通りに生きて欲しいと自身の理想を押し付けていただけだったのではないか。
ソンジュンは、難しい顔をして再び両腕を組んだ。
「だから子供が欲しいのか」
「それとこれとは別よ」
「理由を言ってくれなきゃ、わからない」
「イ・ソンジュン!理屈じゃないってば!」
ユニの細い指が、ソンジュンの頬をつねる。
「いたっ」
真っ赤になった頬を眉をしかめて押さえたソンジュンの様子に、ユニはけたけたと笑い出した。
「笑い事じゃないだろう」
「だって、理由なんかないんだもん」
「子供を産んだら、出仕できないな。特に君は、普通の母親より熱心に教育するだろうから」
ソンジュンの息子は、生まれる前から科挙を受けることが運命づけられている。
そんな子供の教育は、母のお腹に命が宿った瞬間から始まる。
書を解する者を呼んで、お腹の子に毎日詩経を聞かせるのだ。
無事に生まれて三歳になると、母と文字を覚え始める。
その後はその子に儒学者をつかせて、本格的な学問の始まりとなる。
ユニと他の母親との違いは、胎教も儒学者との学習も、すべて彼女が見てやれることだ。
詩経の朗読は、自らの解釈も交えるかもしれない。
普通なら母親が関われない高度な内容になっても、成均館の博士であるユニなら可能なのだ。
寧ろ、そのへんの儒者より、質のいい授業を展開してしまうだろう。
第一子が娘だったら?
やはり、彼女は全く同じ教育を施すに違いない。
「王様が私たちを放っておくのかな」
「確かに、君が休んだら呼び戻すだろうな。乳母を送ってきそうだ」
「王様とお義父様が、また対立しちゃうね」
「その時は、僕は王の側に付こう」
ソンジュンは、笑みを浮かべるほどではないが、幾分目元を柔らかくした。
「君の将来は王次第なのか?それでいいのか?」
「私、本当に朝鮮の理想なんかわからないの。でも、求めてもらえるなら、頑張りたい」
「王が求めなくても、僕が求めるよ」
「子供を産むことに賛成してくれないの?」
「返事は保留にしたいな」
「お願い。ね?」
ソンジュンは、ただ欲しいと言われただけだったら、首を縦に振れなかった。
けれど、ユニは必死に人生を模索している。
彼女の生き方を尊重してみよう。
「わかった」
彼は、彼女の手を取って頷いた。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/11 Fri. 02:15  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 13(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

それから幾日も経たずに、王からの使者が来た。
既に人定(インギョン)の鐘(*1)がなってから何刻も経ち、辺りは静まり返っていた。
深夜に急に訪れた彼らは、王は道袍(トポ)すら羽織らなくても構わない仰せですと、ソンジュンを急かす。
「キム博士は呼ばれているのか?」
ソンジュンは、王がユニも呼んでいるのか、彼一人でいいのか、それともキム・ユンシクとしての参内を望んでいるのか図りかねて、疑問をキム博士という一言に乗せた。
使者の一人が、王の命は、今夜はキム博士もこの屋敷にいるはずだから一緒に連れて来いというものだった、とソンジュンに報告する。
「わかった。すぐに彼も用意させるから、門の外で待っていてくれ」
ソンジュンは、使者たちが門の外まで退いたのを見届けてから、内房(アンバン)に急いだ。
ユニはまだ布団に入っていなかった。
突然の彼の登場に彼女は驚いた顔を見せたが、そろそろ来る頃だと思った、と言ってゆっくりと口角を上げた。
彼女は、閨事のことを暗に仄めかしていた。
彼も、王の邪魔さえなければ、今夜はそのつもりでこの部屋を訪れただろう。
彼女を照らす蝋燭の炎が揺らめいていて、彼女の甘い香りが、部屋いっぱいに匂い立つようだった。
僕もそうしたいよ。彼は彼女を抱きしめたいのをぐっとこらえ、そうこぼすと、手短に王に呼び出されたことを告げる。
「官服は着なくてもいい」
使者は、道袍すら着なくても良いという王の言葉をそのまま彼に伝えた。
王は「今夜は非公式だ」と示唆するために、わざとそんな表現をしたのだろう。
ならば、使者が伝えた言葉は、普段着で来いという指示であるはずだ。
「終わったら、僕の部屋に来て」
彼は、早くも鏡に向かって髷(サントゥ)を結い始めた彼女の背中に最後にそう伝えて、部屋を出た。
しかし、数歩進んで、肝心なことを伝え忘れていたことを思い出し、慌てて内房に戻り、扉を開けた。
「いい忘れたんだけど……」
「きゃっ」
まさに今、単衣を脱がんとしていた彼女が、小さく叫んだ。
単衣がはだけて、彼女の白い肩があらわになっている。
「すまない、いい忘れたことがあって……」
彼は、ごくり、と唾を飲み込んで、言葉を続けた。
「使者が何人も門の外で待ってるんだ。君が男装でこの部屋から出て来るのを見られないように、気をつけて」
彼は舎廊房(サランバン)へ踵を返しながら、ひとりごちる。

ユニの言う通りだ。
呼び出されなければ、今夜彼女を抱けたのに。

何度も唇で味わった、彼女の瑞々しい肌を思い出す。
彼は、首を振って舎廊房の扉を開けた。



ソンジュンは、手早く道袍と笠(カツ)を身に付け、ユニを待つ間に、王の思惑について考えを巡らせた。
下級の官吏を呼び出すには、非公式のほうが都合が良いだろうことは、理解している。
花の四人衆が、王に特別な寵愛を受けているのは周知の事実だが、それを王自ら誇示することは避けたいのだろう。
これまでも、王は何度か、彼らをこっそりと呼び寄せていた。
ただし、常識的な時間に。
今夜、王は、わざわざ外出が禁止されている深夜を選んだ。
使者が何人もいるのは、ソンジュンとユニの身を守る護衛も来たからだ。
夜警の為の巡邏軍と鉢合わせてしまった時に、彼らが対処するのだろう。
恐らく、宮殿で働く従者たちにも、今夜ソンジュンとユニを呼び出したことを知られたくないに違いない。
と、なると。

ヨリム先輩やコロ先輩も呼ばれているのだろうか。

秘密裏に、しかも危険を犯してまで自分たちを呼び出す理由は、何なのか。
ソンジュンは、儒生の頃に王の密命を仰せつかったことを思い出した。

密命でなければ、いいのだけど。

悪いだけの思い出では決してないが、あのような重い体験は二度と御免だ。
と、ここまで考えたところで、舎廊房の外でユニの声がした。
「準備ができたわ。開けてもいい?」
「うん、入って」
ユニは、スゲチマ(*2)を頭からすっぽりと被っていた。
彼の部屋に入ってくると、まず、スゲチマの下から笠を出して彼に見せた。
そして、スゲチマをすとんと下に落とす。
「完璧でしょ?」
綺麗に髷(サントゥ)を結い道袍も身に付けた彼女は、他人の目を欺くことには慣れてるの、と笑った。


(*1)人定の鐘……夜十時ごろから外出禁止だったため、それを知らせる鐘。朝四時ごろに外出禁止が解除されるので、その時間にも人定の鐘がなった。
(*2)スゲチマ……両班の女性が外出の時に身に付けた外套。顔を隠すために頭から被る。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/07/22 Tue. 14:40  tb: 0   コメント: 0

【成均館 二次小説】手をつないで - 14(感謝企画)  

成均館スキャンダル連載

王の使者に大仰に守られながら、二人は宮殿に到着した。
幸い、道中は何事もなかった。
物々しい雰囲気に圧されて、二人は言葉を交わすことなく歩いた。
それは、宮殿に通されても変わらず、見覚えのあるいつもの部屋へ続くいつもの廊下を歩いているにも関わらず、二人の顔はこわばったままだった。
ただ、ソンジュンは、同時に少し安堵もしていた。
如何に物々しい雰囲気であろうとも、この場所に通されるということは、密命を下されるわけではないから。
二人は、使者に促されて部屋に入る。
ソンジュンの予想通り、そこにはジェシンとヨンハがいた。
「来たか」
二人に声をかけたのは、チョン博士だ。
花の四人衆と、彼らと数々の秘密を共有しているチョン博士。
主役が出揃った格好だ。
「よく来てくれたな」
二人がジェシンの隣に並ぶと、執務用の机の向こうで、王は満足気に頷いた。



花の四人衆は、一人残らず神経質な面持ちで王の言葉を待った。
「無理難題を言うつもりはない。イ・ソンジュン博士が投獄されることもないから、安心するが良い」
王は、彼らが神経質になる理由は重々承知だと言わんばかりに、くっくと笑った。
「無駄話をしている時間はないな。単刀直入に言おう。一年経ったら、そなたらには奎章閣に行ってもらう」
王の発言に、四人は拍子抜けした。
約束の一年が過ぎたら奎章閣に行くことは、最早、限りなく事実に近い風説として都に広まっている。
こんな風に秘密裏に呼び出されるような事案ではないのだ。
腑抜けた表情で互いの顔を見合わせる四人に、チョン博士が言った。
「話はこれからだ」
彼は、部屋の外に控える従者に、廊下の端で警護をするように申し付け、人払いをした。
障子扉に人の影が映らなくなってから、王は口を開いた。
「そなたらが奎章閣に入閣するときに、庶孼(ソオル)も同時に登用しようと思う」
四人は、衝撃的な発表にぎくりと肩を揺らした。
そして、元来あってはならない行為だが、王の顔を凝視した。
「そんなに驚くことか?」
「大変失礼いたしました、チョナ」
四人は、揃って頭を垂れた。
「ク・ヨンハ、そなたなら私の気持ちをわかってくれるな」
「恐れ多いことです、チョナ」
突然名指しされたヨンハは、蚊の鳴くような声で返事をした。



両班の父と、良民や中人の母の間に生まれた子を庶子(ソジャ)、両班の父と賤民の母の間に生まれた子を孽子(オルチャ)、彼らを合わせて庶孼(ソオル)と言う。(*1)
彼らは、父が両班にも関わらず、文官として登用されることはおろか、文官の登竜門である文科挙すら受けられない。
先代王の英祖は、庶孼が官吏になることを許可したが、その定着の進みは遅いものだったし、両班、とくに老論の反発は強いものがあった。
老論の権力を激しく嫌った今上王は、即位するとすぐに奎章閣を設立し、老論が阻止する間もなく四人の庶孼を登用した。
花の四人衆がまだ幼かった頃の話だ。
依然老論の反発は強いものの、この四人の庶孼の詩文は清国にその名が轟くほどの名文だという点は、老論も認めざるを得なかった。
詩文が素晴らしいとは、悔しいかな、すなわち官吏として優秀であることを意味するのだ。
その後も、王は庶孼を登用し続けたが、花の四人衆が成均館に入学した時期を堺に、登用が途絶えた。
この時期、辛亥通共や、金縢之詞と遷都を巡る対立などで、王と老論は表立って争った。
故に、王は、暫くは老論を刺激することを避けていたのだ。
あれから、充分と言えるほど日は経っていない。
老論はますます頑なになり、水面下で政治を動かそうと奔走し、それを間近で見ているソンジュンとユニも辟易するぐらい、王と老論の溝は広がっていた。
「チョナ。失礼ながら申し上げます。私達と庶孼が、共に矢面に立つことになると仰りたいのでしょうか」
ソンジュンは、王の真意をはかりかねて、目を伏せながら問うた。
「いや、そうではない。そなたらに密命を下すつもりで呼び出したのだ。流血の危険も、投獄される心配もない、密命をな」
花の四人衆は、四人が四人とも、拳をぎゅっと握りしめた。
密命。
この世で一番聞きたくない言葉だ。
王は、また喉の奥でくっくと笑った。

(*1)当時の身分制度は、両班、中人、良民、賤民の四階級、もしくは 両班、良民、賤民の三階級に分けられます。

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「王が、奎章閣を設立し四人の庶孼を登用。彼らは大変な名文家だった」
ここは史実です。
以降は、soyteaの創作です。




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【作品名】手をつないで

【テーマ】 成均館スキャンダル二次小説  ソンジュン×ユニ  一ヶ月感謝企画 

2014/08/12 Tue. 19:21  tb: 0   コメント: 0

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