芙蓉の書-成均館スキャンダル屋根部屋のプリンス3days二次小説

JYJユチョン主演の韓国ドラマドラマ「トキメキ☆成均館スキャンダル」「屋根部屋のプリンス」「スリーデイズ(3days)」の二次小説ブログです。
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> テヨン×パク・ハ

テーマ: テヨン×パク・ハ 一覧

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 1  

屋根部屋のプリンス連載

「ねぇ、転生って信じる?」
エレベーターの中で、パク・ハは聞いた。
「うーん、あんまり。信じる?」
「私は信じてる」
テヨンにとって、それは意外な返答だった。
楽とは言えない人生をこれまで必死に生きてきた彼女は、どちらかと言うと、現実的な考え方の持ち主だと思っていたからだ。
「パッカはロマンチストだね。そういえば、生まれ変わりじゃないけど、変な夢を見たよ」
転生と言われて、テヨンはなんとなく思い出した夢の話を始めた。
「朝鮮時代でさ、すごく立派な韓服来ててさ。漢字なんか少ししか知らないのに、筆でスラスラ書いてるんだ。他にも漢文が書いてある紙がたくさんあって、何故か全部読めてた」
「何を書いてたの?」
「民がどうとか、両班がどうとか・・・」
エレベーターが最上階に着いたのに、パク・ハは動かない。
テヨンはパク・ハの腰を抱いて、エレベーターから出るように促した。
「でもハングルも書いてたな。ジュース屋はうまく行ってるか?って。ははっ、現実と混ざってるよね。あの時代の男はハングルを使わないし」
目的の部屋の前につくと、カードキーでドアを開ける。
パク・ハがまた立ち止まったので、テヨンは彼女の腰を押した。
「でも、なんでハッキリ覚えているのかな。普通、夢ってすぐ忘れちゃうよね?」
「大切なことだから」
テヨンの軽さとは対照的に、驚くほど真剣にパク・ハは言った。
「でも、夢だよ?」
「きっとテヨンさんには大切なことなのよ」
パク・ハは、それきり何も聞いてこなかった。



亡くなったハルモニが、仕事のために高級ホテルのスイートを契約していたことを知ったのは、目が覚めてからだった。
それは、自動的にテヨンとの契約になっていた。
デートで特に行きたい場所がない時に、彼はパク・ハをそこに連れて行く。
彼女は、あまり希望を言わない。
「今は、二人でこうしていたいの」
カフェで待ち合わせて、今日はどこに行く?と聞いた時の返事がこれだった。
結局、その日二人は、カフェでコーヒーを何杯も飲んだ。
恋愛初期はイベント満載で浮かれるものだとばかり思っていたテヨンは、初めは肩透かしを食らった気分だった。
しかし、一つだけ、彼女にも「らしい」ところがある。
いつも手を繋ぎたがるのだ。カフェでも、街を歩いている時も。
今みたいに、体を重ねている時も。

僕はどこにも行かないよ。

テヨンは、絡みつく指を外すと快楽の波に飲まれていった。



シャワーを浴びて戻ってきたパク・ハを腕の中に迎え入れて、テヨンが言った。
「ここより、僕の部屋に来て欲しいんだけど」
「でも、私の部屋に呼んでないから、悪いわ」
体を合わせるような仲なのに、パク・ハはテヨンが屋根部屋に来ることを拒んでいた。
「それは構わないよ。今は、僕の部屋だけでも」
初めてパク・ハの体を求めた時、テヨンは少し早急だと思ったけれど、パク・ハは不思議なぐらい自然に受け止めてくれた。
年上だからだと思った。
しかし、いざ抱いてみると、初めてだと言って少し怯えていた。
終わった後「ずっとこうしたかった」と言われてひどくほっとしたことを、テヨンは覚えている。
それからは、パク・ハのほうからテヨンを求めることもあった。
だから、まだ出会ってからの時間はそう長くはないが、もう少し関係を深めたかった。
「いつか君の部屋を見たいな」
「あとひと月ぐらいしたら」
「一ヶ月っていうのは、恋愛テクニック?」
「ううん、私の家で沢山話したいことがあって。もう少し時間が必要なの」
「なんか怖いな。それって、いいこと?悪いこと?」
「いいことよ」
テヨンには、あまり「いいこと」のようには聞こえなかった。
パク・ハの瞳が、不安そうに揺れたから。
彼女の愛は、深い。
テヨンは、決して自惚れてるわけではない、と思う。
まだ二人の仲は始まったばかりだというのに、彼女に強く求められ、また彼も、自分の気持ちを止める術を知らない。
しかし、なぜだろう。
テヨンはいつも、砂の城が少しづつ崩れていくように、気がついたら二人の関係も跡形もなく消えてしまうような錯覚を覚える。
「ネックレスを外してくれない?」
パク・ハは胸元の翡翠のペンダントを持ち上げて頼んだ。
「テヨンさんが持ってて」
「大事にしてるんじゃないの?」
「うん、でも、テヨンさんに持っていて欲しい」
正直、悪い気はしなかった。

また少し、パッカに近づけたのかな。

手の中の翡翠は、パク・ハの体温が残っていて、温かかった。




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/01/05 Sun. 11:08  tb: 0   コメント: 3

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 2  

屋根部屋のプリンス連載

一年近くリハビリをして体を自由に動かせるようになった時、テヨンが真っ先に決めたことは、絵を続けよう、ではなく、ホーム&ショッピングを継ごう、ということだった。
誰かに強制されたわけではない。
大叔母のソリと、ハルモニの右腕、ピョ・テクスが、テヨンの面倒を見てくれていた。
テヨンが会社を継いだほうが都合のいい彼らですら、テヨンがそうしたいと告げた時に、心配したほどだ。
「君は大変な目にあったんだ。会社に関わると、気分が悪くなったりしないのか?」
テクスが心配するのも最もだった。
テヨンは、事件のあらましをかなり詳細に警察に伝えることができた。
「僕らは、会社を継ぐ、継がないで揉めて、それで・・・」
話がヨン・テムに殴られたところに差し掛かると、テヨンは嘔吐した。
付き添っていたソリが取り調べを打ち切ってくれたから事なきを得たが、そのまま続いていたらどうなっていたかわからない。
テクスは、そのことを指しているのだ。
「もう大丈夫です。医者のアドバイスで絵も時々描いてるんです。精神的に安定するからって。効果は出てますよ」
「そうか。君はずっと絵をやりたかったんだ。時間を見つけて続けなさい」
それから程なくして、テクスはテヨンの教育を始めた。
テヨンはスラスラと飲み込んでいく。
予想よりずっと早く、リハビリを終えてから三ヶ月たった頃、全般的なことは覚えきった。
テクスには、テヨンの飲み込みに関して、思い当たるフシがあった。
そろそろ正社員にして、半年後には部長かな。
テクスは、テヨンが眠っていた時の出来事の数々に思いを馳せ、「収まるところに収まった」と胸をなで下ろした。



テクスは、テヨンが目を覚ました半年後、パク・ハに会いに行っていた。
忽然と消えた、テヨンになりすましていた男の手がかりが、欲しかったのだ。
型通りの挨拶を終えた後、テクスは切り出した。
「パク・ハさん、最近、やつから連絡はきましたか?」
パク・ハは黙って首を横に振った。
「恋人の君にも、連絡をしないなんてな」
実のところ、「彼はソウルにいます」と返されたとしても、テクスは何も不安に思うことはなかっただろう。
彼は、テヨンが目覚めたと知ったらきっと喜ぶ。会社を乗っ取ろうなんて、微塵も考えてないやつだ、と。
もし会えたら、テヨンがリハビリに勤しんでいることを伝えたかった。
「ピョ社長、彼の名前はイ・ガクって言うんですよ」
パク・ハは愛おしそうに彼の名前を告げた。
「はは、あんなに助けてもらったのに、今名前を知ったよ。また会いたいな」
「今からうちに来ていただけませんか?」
イ・ガクについて、手がかりを教えてくれるのだろうか。
このチャンスを逃す理由はない。
テクスは、パク・ハのトラックに乗り込んだ。




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/01/12 Sun. 12:00  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 3  

屋根部屋のプリンス連載

パク・ハの屋根部屋は以前と変わらず、綺麗に使われていた。
ただ、四人で暮らしていた家に今はパク・ハ一人とあって、寒々しい雰囲気は拭えない。
当初、パク・ハは引っ越すつもりでいた。
だが、「訳の分からない大騒動だったが結果的にテヨンを守ってくれた」と、ソリがパク・ハにこの屋根部屋を譲ったのだ。
パク・ハはホーム&ショッピングを離れてからも、たくましく生きている。
テクスは掃除の行き届いた部屋を見渡し、安心した。
しかし、その後にそこで聞いたパク・ハの話は、俄には信じられないものだった。

テヨンは、朝鮮時代の王イ・ガクの生まれ変わり?

パク・ハは事細かには説明をしなかった。
テクスが感じていた違和感を一つ一つ潰すように、淡々と話を進める。
「すぐには信じられませんよね?」
「ああ、話が飛躍しすぎていて・・・」
しかし、では全く信じないかというと、テクスはそちらにも転べなかった。
「お見せしたいものがあるんです」
パク・ハは一度自室に戻ると、竹で作られた筒を持ってきた。
筒から古そうな紙を取り出し、破れないように丁寧に広げる。
「イ・ガクが朝鮮に戻った後、私に書いてくれた手紙です」
ハングルでパク・ハに対する愛を切々と綴った手紙だった。
その筆跡は、確かに見覚えがあった。
「イ・ガクの字だと思いませんか?」
「うーん、まぁ・・・」
それに、現代のものではないと一目瞭然のこの紙には、パク・ハのジュース屋について言及している箇所がある。
パク・ハがどのようにジュース屋を始めたのか、ここにいる二人とソリ以外には、イ・ガクたちにしか知り得ないことだった。
「ピョ社長、一緒に専門家の鑑定を受けに行ってもらえませんか」
「鑑定?」
「この手紙を鑑定するんです。私はイ・ガクが朝鮮時代に書いたものだとわかりますが、ピョ社長は信じられませんよね?」
「そりゃ、パク・ハさんの言うことは、まだ信じてないさ」
「内容も現代的だし、古文書解読だけでは、鑑定結果も現代になってしまうかもしれません。だから、炭素で測定してくれるところで。一緒に行っていただけませんか?」
「俺が?」
「あなたはテヨンさんの保護者です。本当のことを知っていて欲しいんです」
イ・ガクについての消息は、パク・ハしか知らない。
テクスは、彼の足取りをつかめるのなら、なんでも良いという気分になっていた。




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/01/20 Mon. 11:28  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 4   

屋根部屋のプリンス連載

数週間後に二人で受け取った鑑定結果は、300年前に書かれた文書、というものだった。
「信じてもらえますよね?」
テクスは重いため息をつく。
イ・ガクが過去から来た人物だと確定したからと言って、彼とテヨンと結びつける証拠があるわけではない。
しかし、肉親をも騙し通した二人の容姿の酷似は、ただの他人の空似と片付けられるレベルではなかった。
「信じるしかないだろう。この手紙もそうだけど、パク・ハさんの言うことは、あの時の出来事一つ一つと辻褄があうんだ」
パク・ハはそれを聞いて微笑んだ。
しかし、いつも寂しげな空気を纏っている彼女の雰囲気は、微笑んでも変わらない。
「パク・ハさんは、イ・ガクに会いたいのかな。テヨンに会いたいのかな」
「テヨンさんはイ・ガクです。私は、テヨンさんを待ちます」
「私から、テヨンに話そうか?」
「いえ、もし思い出さなくても、私は彼を愛しますから」
「そうか。・・・ソリには私から伝えよう。その後で、彼女にも一度会ってくれないか?」
「ええ、もちろん」
鑑定書をもって、テクスは帰った。
それからすぐに、テクスはパク・ハに電話を寄越してくれた。
ソリに話したら気が動転して寝込んでしまったから、もう少し時間をくれ、と。
その後、今度はソリからパク・ハに電話が来た。
「パク・ハ、びっくりするようなことを聞いたんだけど、本当なの?」
「はい、ピョ社長にお話したことなら」
「そうよね。彼もすごく真面目な顔してこんな話をするんだもの」
「びっくりしましたよね?お体は大丈夫ですか?」
「体はもう大丈夫よ。彼が三人で会おうっていうの。私もその必要があると思うわ。今日、屋根部屋に行ってもいい?」
急な申し出ではあったが、パク・ハは承諾の返事をし、電話を切った。



「ああ、パク・ハ・・・!」
ソリは玄関に入るなりパク・ハを抱きしめ、泣き出した。
「おい、何だいきなり」
テクスがパク・ハからソリを引き剥がしても、感極まった様子で、ソリは泣き続けている。
パク・ハは二人をソファーに案内し、温かいお茶を出した。
「落ち着くと思いますから、どうぞ」
パク・ハの言う通り、温かいお茶をすすっている間に、ソリはだいぶ落ち着きを取り戻してきたようだった。
「ねぇ、パク・ハ。あなたはテヨンを愛せるの?」
パク・ハは、テヨンがイ・ガクの生まれ変わりであることをもう一度説明する必要があると思っていたから、この質問に驚いた。
ソリは、パク・ハの話す転生について、微塵も疑っていない。
テクスがうまく言い聞かせたのだろう。
「えっと・・・テヨンさんはイ・ガクだし、イ・ガクはテヨンさんですから」
「でも、テヨンと話したことはないわよね」

--君たちは出会う運命だった。

「私たちは出会う運命だったんです」
イ・ガクの言葉そのまま、パク・ハは告げた。
「NYで一度会っていました。私は覚えていないけど、テヨンさんが、この葉書を私の働いていたお店に預けたんです」
パク・ハは、テヨンの署名の入ったはがきを見せる。
「これって・・・!」
以前の騒動を思い出して、ソリはまた泣きだした。
「あれは、そういうことだったのね。ごめんなさい、辛く当たって」
「いえ、そんな・・・」
「パク・ハ、本当にありがとう!」
ソリは再びパク・ハを抱きしめた。
今度はテクスも彼女を止めなかった。
「パク・ハさん、私たちはこのことをテヨンに言わないでおくけど、もしテヨンがパク・ハさんを思い出したら、君の居場所を言っていいかな?」
「そうよ、どこにいるかわからなきゃ、あなた達、出会えないわ!」
ソリはパク・ハの頬を撫でながら言う。
「ありがとうございます。でしたら、お言葉に甘えます。私のお店を教えて下さい」
「ああ、そうしよう。今日は急に押しかけてすまなかった。そろそろお暇するよ」
ソリはまだまだ言い足りないことがあるようだったが、テクスが「パク・ハさんの迷惑になる」といって、彼女を車に押し込んだ。
「私たち、こうして時々会いましょう。あなた一人で耐えてるなんて、可哀想すぎるわ」
ここまで一人でイ・ガクのいない世界に耐えてきたパク・ハに、二人の好意はとてもあたたかく感じられた。

ねぇ。チョハ。
私もずっと辛かった。
あなたがいなくなったこと。違うって、心が叫んでた。
誰のせいでもないって、わかってるの。
あなたは大きなことを成し遂げて、深く愛してくれた。
でも、私はちいさすぎるから。
けど、ね。

私、あともう少し頑張れそう。

パク・ハは顔を上げた。
イ・ガクと二人で見上げた夜空と幾分違わず、今夜の空も、星が強く輝いていた。




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/01/23 Thu. 11:19  tb: 0   コメント: 2

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 5  

屋根部屋のプリンス連載

「その前に、ニューヨークに行かせてもらえませんか」
テクスが、君を正社員にするつもりだと伝えると、テヨンはすまなそうに頭を下げた。
「やっぱり絵がやりたくなったか?」
「いえ、その、探したい人がいて……」
うまく伝えられず、濁したような話し方になってしまい、テヨンは内心舌打ちをした。
「男か?女か?名前は?」
「えっと……」
矢継ぎ早に繰り出される質問は、初歩的なようで核心をついていた。
テヨンは口ごもった。
ここは社長室。一目惚れした女性です、とストレートに返答するのは、気が引けたからだ。
一方のテクスは、今すぐにでもパク・ハに会わせてやりたいのを堪えて、腕組みをした。
パク・ハは、長い間耐えてきた。慎重にならなくてはいけない。
テクスがこの問題に関わるのは、話をややこしくするだけだ。
彼は、話題を変えた。
「お前はどうして会社を継ぎたいんだ」
「ハルモニが必至に守ってきた会社です。テム従兄さんのこともありましたし、僕が継ぐのが当然でしょう」
「お前は絵を描いて、お前の子どもや孫が継いでもいいだろう。それまでは、俺が守ってやる」
眼鏡の奥の視線が鋭くなった。
「ありがとうございます。でも、これは僕の役目です」
テヨンと会話をすると、時々、共に戦ったイ・ガクと言葉を交わしているような感覚に襲われる。
彼はパク・ハが言っていた「転生」をまざまざと見せつけられた気がして、テヨンの瞳の奥を探るように見上げた。
しかし、もうイ・ガクの面影は影を潜め、イ・ガクに比べると多少幼いテヨンが、テクスを見つめ返すばかりだ。
「お前の心意気はわかった。尚更、仕事に集中してもらわないとな。ニューヨークは保留だ。今日はもういいから、帰ってソリの買い物に付き合ってやれ。明日から正社員だ。遅刻するなよ」
「でも……」
引き下がる気配のないテヨンをドアの方に押しながら、テクスはソリに電話をかけた。
「もしもし、今からテヨンがそっちに行くから、買い物に付き合ってもらえ。あ、それと、最近気に入ってるフレッシュジュースの店があるだろ?テヨンに、あそこのジュースを飲ませてやりたい。明日から正社員なんだ。栄養をつけないとな」
テクスに手で追い払われ、テヨンはすごすごと退散するしかなかった。



テヨンが家に戻ると、準備万端のソリがでテヨンを待っていた。
「おかえり、テヨン。出かけるわよ」
休むまもなく、車のキーを手渡される。
ソリは助手席に乗り込むと、まずはジュース、とテヨンに告げた。
「最近好きでね。すごく美味しいの。ジュースを飲みながら買い物しましょ」
弾んだ声を聞きながら、ニューヨークについて次はどう話を切り出そうかと、テヨンは考えを巡らせた。
エンジンをかけるでもなく運転席に座っているテヨンの頭を、ソリは呆れた様子で軽く叩いた。
「私がナビするから、車出して」
テヨンが車を出すと、ソリは「そこを右、次は左」と指示を出しながら、世間話を始めた。
年頃の青年らしく、彼は自分自身のことをべらべらと話したりしない。
聞くが九割。そんな言葉があるが、彼女の話は窓の外を流れる景色のように淀みなく続いたから、聞き手の義務を意識せずとも、テヨンは頷くだけで十分だった。
小さな店が立ち並ぶエリアで、ソリは車を停めるように言った。
車を脇によせてから、テヨンはあたりを見回した。
「テヨン、通りの向かいお店、わかる?」
「カフェっぽい店ですか?」
「そう、あれがジュース屋。私はここで待ってるわ。りんごジュース、お願いね」
ソリはシートベルトを締めたまま言った。
テヨンには、それは、まったく降りる気はないという意思表示のように映った。
「伯母さん、何かおすすめはありますか?」
「そうねぇ、たくさん種類があるから、ゆっくり選んで来なさい」
ゆっくり、に力を入れてソリは答えた。
そう言われても彼女を待たせるのは気が引けて、テヨンは駆け足で通りを渡った。
店の前で一度立ち止まり、看板を確認している。
ソリは、そのテヨンの背中に向かって声をかけた。

もうすぐよ。あなた達二人は、もうすぐ幸せになれる。




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/03/16 Sun. 19:19  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 6  

屋根部屋のプリンス連載

テヨンが店に入ると、数人がレジに並んでいた。
ソリはゆっくり選べと言ってくれたが、ここへは付き合いで来ただけだ。テヨンは、ソリと同じようにりんごジュースと決めると、先ほどソリによって中断させられたニューヨーク行きについて、再び考えを巡らせた。
……確かに、これから正社員だから、自覚が足りないと思われても仕方がないかな。
でも、この機会を逃すと、もう休暇も取れなそうだし……。
「ちょっと、お兄さんの番だよ」
後ろの人にせっつかれて、テヨンは自分の番が来たことに気付く。
「りんごジュース2つください」

……!!!

テヨンは、財布からお取り出した紙幣を、危うく落としそうになった。
まず目に入ったのは、自分の胸辺りの高さにある、つむじ。
その後に、横顔。
客であるテヨンの顔を一度も見ずにジューサーにりんごをセットしている店員は、まさしく、テヨンがニューヨークに行って探し出したい人だった。
「あの……」
「お待たせしました。りんごジュースです」
やはりこちらを向かず俯いたまま、彼女はカップをカウンターに置いた。

話しかけなきゃ!!

「あのっ!」
うんんっ!
先ほどテヨンをせっついた客が、大きく咳払いをした。
苛つきを全く隠さず、テヨンに脇へずれるように視線を送る。
仕方なく店の隅まで下がりタイミングを伺ってみるも、客足は途絶えず、なかなか声をかけられない。
結露してできた水滴がカップに沿って垂れ、テヨンの両手を濡らした。

また、声をかけられなかった。

ニューヨークのあの店で、勇気を出せずに素通りされた場面が蘇る。
もう三年以上も前の出来事だが、こと女性に関しては、まったく成長していないらしい。
その後の展開を思うと綺麗なだけの思い出ではないけれど、だからこそ、彼女のことが忘れられなかった。
彼女は、テヨンにとって救いなのかもしれない。
テヨンは車に戻りソリにジュースを渡したが、運転するでもなく「可愛かった」と座ったまま呆けた。
ソリは、もう、車を出すように促す気も起こらない。
「……ジュースがぬるい」
「すみません」
「にやにやして気持ち悪いわよ、テヨン」
にやけ顔を隠すためか彼は心なし俯いたが、満面の笑みが隠れるわけもなく、その行動は全く無意味だった。
そんな彼に釣られて、ソリも微笑む。
彼女は、自身の顔の緩みを気付かれないように窓の外を見た。

テヨンを開放してあげよう。一人になりたいはずだから。

「今日は、テクスさんに付き合ってもらうわ。にやけたテヨンと、一緒に歩きたくないもの」
「にやけてる、かな?」
「男でしょ。顔を引き締めなさいよ」
ソリに頬を抓られたて、テヨンは、やっと、車のエンジンを掛けた。



ソリは、テクスを近くのカフェで待つと言ってさっさと車を降りてしまったので、テヨンは車のキーを返すために、一人で社長室に上がって行った。
「ニューヨークのことなんですが」
「保留って言わなかったか?」
テクスは眉を上げた。機嫌が悪い、という合図だ。
普段なら怖気づくが、今のテヨンは全く気にならない。
恋は人を強くする。
そんな陳腐なセリフすら、頭を掠める程だ。
「ニューヨークに行く必要がなくなりました」
「ふーん。その程度なら、最初から話を出すな」
「彼女のこと、見つけたんです!」
テヨンは、ジュース屋で働いていたと、嬉しそうに告げる。
「まぁ、俺は、お前が明日ちゃんと出社すれば文句ないぞ。そのにやけ顔をひっこめてな」
「……にやけてますか?」
「ああ、ひどいな」
テヨンは、両手で頬を押さえて、テクスに問いかけた。
「彼女のこと、なにか知ってますか?アルバイトですか?名前は?」
「そんなもん自分で聞け。いいか、俺は社長で、ここは社長室。浮かれるな」
「……はい」
浮かれるなと言われても、顔が勝手に緩んでしまう。両手で頬を押さえたまま、テヨンは社長室を出た。
今日はあまりにも急な再開で、何も出来なかった。
彼女の手作りジュースも、結局、味わえなかった。
何より、もう一度、彼女に会いたい。

また、行ってみようか?




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【関連作品】

【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/03/25 Tue. 20:04  tb: 0   コメント: 2

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 7  

屋根部屋のプリンス連載

テヨンは、パク・ハの店に引き返した。
テクスからの一通のメールが、この店が彼女のものだということを教えてくれていた。
社長室では厄介払いをされてしまったが、一つだけ教えてやる、と携帯にメールを送ってくれたのだ。
ならば、看板に書いてある、パク・ハが彼女の名前だろうか?
テヨンは「パク・ハ」と呟いてから、店に入った。
俯いていた彼女は、彼が店に入っても、フロアに視線を移さなかった。
「りんごジュースください」
少し待ってみたが、彼女からの返事はない。
「りんごジュースください」
テヨンは、彼女の、店主なのに無愛想な態度が、なんだかおかしかった。
彼が一度来た客だということも、気づいていないのだろう。
おかげで、彼は、彼女の顔をじっくりと見つめることが出来た。
穏やかな瞳も。
その瞳を覆う、長いまつげも。
すっと形の良い鼻も。
固く結ばれていても愛らしい唇も。
左耳に掛けた、柔らかな茶色い髪も。
ありがとう。そう声をかけたが、彼女は、ありがとうございますと、俯いたまま答えた。
テヨンは、これ以上、言葉を続けることを諦めた。

いくら他に客がいなくても、やすやすと彼女を誘うなんて、できっこないのだ。
ありがとう、と礼を言うのが精一杯で。

彼は、胸に広がる温かな気持ちが、不思議だった。
彼女が自分を好いてくれると決まったわけでもないのに、元気そうな姿を見るだけで、幸せな心持ちがした。

元気そう、か。

無愛想な彼女の様子は、言葉を変えるなら、元気がないと形容したほうが近い。
何故、元気そう、と思うんだろうか。
テヨンの足は、頭のなかの曖昧模糊とした思考と同じように、目的もなく歩道を進む。
りんごジュースを飲みながら、そんな風にぶらぶらしていると、カフェの店先で売られているポストカードが目に留まった。

声をかけることが出来ないのなら、初めての出会いの時のように、ポストカードで誘おう。

彼女は、覚えているだろうか。もしかしたら、あのカードは彼女のもとに届かなかったのかもしれない。
テヨンは、それでも良かった。
南山タワーのカードと甘いクリームがのったコーヒーを買い求めると、そのカフェの片隅で、先ほど見つめた彼女の横顔を、カードにすらすらと描いた。



仕事を早く切り上げられそうな日の朝、テヨンは、彼女の店のドアにカードを挟んだ。
仕事を終えて、約束の時間より少し早く南山公園についた彼は、彼女がやって来たのを認めたものの、少しの間、距離をとって彼女を眺めていた。
評判の店を切り盛りしているしっかり者のはずなのに、彼女は頼りなげで、心細そうにテヨンを探していて、安易に声をかけられなかったからだ。
なぜだか、ごめん、と謝って抱きしめてやりたくなった。

「どうして、こんなに遅かったんですか?ずっと待ってたのに」

テヨンは、笑顔で自己紹介をするつもりだった。
しかし、切ない気持ちのまま出した声は、酷く深刻だった。
何故、ずっと待ってた、なんて言葉が出たのかわからない。

「どこにいたんですか?私は、ずっとここに居たのに」

彼女は、涙を零してそう言った。
テヨンも、あふれる涙を止めることが出来なかった。
二人は、涙を拭うことも忘れてしばらく見つめ合っていた。
恋の始まりにしては、真剣すぎた。
そして、その日から、彼女はテヨンの手を離さなくなった。




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【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/04/06 Sun. 20:06  tb: 0   コメント: 2

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 8  

屋根部屋のプリンス連載

パク・ハは窓際に立って、光が揺らめくソウルの街を見下ろしていた。
「夜景、きれい?」
「うん、すごくきれい」
シャワーを終えたテヨンは、髪を拭かずに出てきた。
後ろから抱きしめられたパク・ハの肩を、彼の髪から落ちた雫が濡らす。
「テヨンさん、髪を拭いてないの?」
「テヨンさんは嫌だな。テヨンって呼んで」
キャミソールの肩紐は、水滴で肩が濡れるのを防いではくれなかった。
テヨンは、パク・ハの肩に直接落ちる水滴を、吸い取っていく。
「……んっ、テヨンさん……」
「じゃあ、僕もパッカヌナって呼ぼうかな」
「ヌナは、や……」
「じゃあ、テヨン」
「……テヨン」
テヨンは、南山公園で「パク・ハさん」と呼びかけ却下され「パク・ハ ヌナ」と呼びかけ、これもすぐさま却下された。
年上の女性に対し、何も付けずに呼びかけるようなことが出来る性格ではない彼は、口ごもった。
彼女が、そんなこと気にする必要ないでしょ?と微笑んだから、それならば自分のこともテヨンと呼んでくれと提案したが、女心がわかっていない、という理由で受け入れてもらえなかった。
「ね、もう……」
「ベッドに行こう」
力が抜けてしまったパク・ハを、テヨンは抱き上げた。



一頻り愛し合ったあと、テヨンはパク・ハを胸に抱いて眠りについた。
ところが、一時間も立たないうちに、テヨンの呼吸が荒くなった。
彼は玉のような汗をかき、低いうわ言は、よく聞くと、彼女を呼んでいる。
「……パッカ!」
パク・ハがそっとテヨンの肩に触れると、突然彼は大声を上げ、勢い良く起き上がった。
そして大きく息を吸い込み、俯いて顔を両手で覆ってしまった。
酷く消耗しているのか、そのまま、動かない。
「大丈夫?」
テヨンは、ゆっくりとパク・ハの方に振り向く。
「夢?……よかった」
テヨンは、肩で息をしながら、パク・ハを抱きしめた。
彼女の体に回った両腕は、震えていた。
「パッカが火事に巻き込まれた夢だった。助けたんだけど」
「火事?」
「……うん、会社の倉庫で火事があって、パッカが閉じ込められてて」
テヨンの声は、抱きしめられた距離でもやっと聞こえるほど、小さかった。



テヨンは、息が落ち着いた後も、パク・ハを抱きしめ続けた。
月明かりだけの室内で、お互いの顔はよく見えないけれど、ぴったりと合わさった肌の温もりと汗の匂いが、相手の存在がまだここにあることを、教えてくれた。

僕の前からいなくなりそうで、怖かった。

テヨンが、小さい声のまま、ぽつりと言うと、パク・ハは泣きそうな声を出した。
「絶対に、テヨンさんを置いて、いなくなったりしない」
「ごめん、たかが夢で。変だよね」
ごめんと言いながらも、テヨンは彼女のことを離さない。
彼は、確認せずには居られなかった。
「どうして、こんなに愛してくれるの?」
「テヨンさんを愛していることに、理由が必要なの?」
テヨンが、パク・ハを抱きしめたまま彼女の手に指を絡めると、彼女は強く握り返してくれた。
「本当に、愛してるんだ」

呼び方が、テヨンさんに戻っていても。
僕たちは、こんなに近い。

それなのに、焦燥感がテヨンを襲う。
いずれ一人きりになってしまう、という漠然とした不安が、時々首をもたげる。
だから彼は、愛していると、いくら言っても言い足りなかった。




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【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/04/25 Fri. 19:03  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 9  

屋根部屋のプリンス連載

愛に理由はない。
火事の記憶が戻った晩に、パク・ハはテヨンにそう告げた。
「理由のない恋愛は、いつか終わりが来ます」
つけっぱなしにしているテレビの中で、アドバイスと称して知った風なことを言う、いかにも業界人然とした評論家が、したり顔で訴えた。
他の出演者が大きく頷くのを見届けてから、彼女はこう続けた。
「だから、あなたが恋人を好きな理由を、箇条書きして下さい」
なかなか惹きつけられる出だしだった割には、対処法が薄っぺらくて馬鹿馬鹿しくなり、パク・ハはテレビの電源を切った。
たぶん、テヨンはもう幾度となく、彼の頭の中で箇条書きしている。
それで余計に、混乱しているのだろう。
パク・ハは、テヨンに言えなかったが、本当は、彼女の愛には理由がある。
愛に理由がある、と言うと語弊があるかもしれない。
正確には、愛の強さには、だ。
このことを告げる時期が近づいているのかもしれない。
現に、あの晩から数日経つが、テヨンは彼女に連絡を寄越していなかった。



ソリがパク・ハに電話をくれた。
テヨンはここ数日、仕事から帰るとずっと部屋に閉じこもっていると言う。
彼女は、彼からの連絡を待つとソリに告げて、イ・ガクが使っていた部屋に入った。
イ・ガクが去ってからテヨンと付き合い始めるまで、この部屋で夜を明かすのが彼女の習慣だった。
イ・ガクの好み通りに糊を効かせた清潔なシーツに上に横たわると、ここで「愛している」と言ってくれた彼が、今すぐに「ただいま」と帰ってくる気がしたのだ。
彼女はシーツをよく洗濯していたが、枕カバーだけは洗えなかった。
彼の残り香が消えてしまうのは耐えられなかったから。
それでも、やはり、彼の香りは日を追うごとに薄れていった。
苦しくて、クローゼットから彼が好んで使っていたシャツや寝間着を引っ張りだし、身に纏って寝始め、その香りも薄れてしまった頃、テヨンが彼女を見つけてくれた。
以前彼女は、イ・ガクとテヨンは同一人物だとテクスに言い切ったが、テヨンに出会うまで、本当は確信が持てないでいた。
南山公園で手をつないだ時、ふわっと香ったテヨンの香りがイ・ガクのものと寸分違わず同じだったから、彼女は、余計なことは考えず、ただ素直にテヨンを愛することが出来たのだ。
今のパク・ハは、イ・ガクとテヨンが同じ人物だと思う理由も、彼の好きなところも、箇条書きしろと言われれば、いくらでも並べられる。

時々、彼女をからかうところ。
柔らかそうに見えて、結構、亭主関白なところ。
ちょっと世間知らずなところ。
寂しいと言う前に、寂しさに気付いてくれるところ。
こんなにしっかり生活しているのに、何故か、いつも彼女の心配をしているところ。
愛情表現を厭わないところ。

並べてみると、なるほど愛し愛される幸福感に包まれるが、所詮それだけで、愛の理由には程遠い。
パク・ハには、理由のある愛のほうが、むしろ危うく感じられた。
テヨンは、今、苦しんでいる。
得体の知れない夢にうなされているのかもしれないし、もしかしたら、イ・ガクのことを思い出して、パク・ハの愛を疑っているのかもしれない。

時空を超えた愛。

テヨンにこんな風に説明をすれば、きっと感動的だろう。
しかし、いずれこのことに価値を置かなくなる時が来る。
その時に、彼女は彼を愛さなくなるかというと、彼女は、確信を持って違うと言える。

じゃあ、テヨンさんは?

これも、彼女は確信を持って、否定できる。
その程度の思いなら、イ・ガクは生まれ変わってまで、彼女に会いに来なかったはずだ。
理由は?と聞かれても、彼女からは何も出てこない。
信じているから。それだけだ。
だから、テヨンは、絶対にこの局面を乗り越える。
イ・ガクもパク・ハも、最後の瞬間まで、信じていたから。




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【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/04/28 Mon. 17:28  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 10  

屋根部屋のプリンス連載

会社の階段で、パク・ハとキスをした。
ペアリングを一緒に買った。
時代劇みたいな格好で、警察に捕まった。
ハルモニが、階段の下で倒れていた。



テヨンは、日中に幾度も幻影を見るようになり、ソリに、頭がひどく痛いから、と言って食事以外は部屋に篭った。
もしかしたら、ひどく目眩がするから、だったかも知れない。
ともかく、幻影を見ると、痛みとも目眩ともつかぬ頭の重たさと動悸に見舞われた。
それは、突然現れる。
テヨンが一人で車を走らせていた時に、遅い!とパク・ハに怒鳴られて、びっくりして右隣を振り返ったら、彼女が彼を睨んでいた。
「パッカ?」
彼女は、彼が一番気に入っている白いワンピースを着ていて、窓から入るそよ風で、柔らかくカールした前髪が、少し揺れていた。
しかし、彼が彼女の髪に手を伸ばしたら、彼女はプロジェクターで投影される映像のように、すっと消えてしまった。
彼はあまりに驚いて急ブレーキを踏んでしまい、危うく後ろの車に衝突されかけた。
それ以来、彼は車を運転していない。
そんなことが度々起こった。
テヨンは、精神的な病を患ってしまったのかと疑って、本屋で目についた入門書を買い漁った。
勢いで買ったはいいが、いざ本を開くと、ページを捲る指が震えた。
結局、自覚症状である「恋人の幻を見る」という記述は見つからず、次にテヨンがぶつかったのは、自分はストーカーになってしまうのでは、という恐れだった。
パク・ハを愛しすぎている自覚はあるが、彼女が嫌がらないから、全く自制して来なかった。

四六時中、彼女を想っているのは、危険だ。
だから、仕事に没頭しよう。
彼女はホーム&ショッピングと関わりがないから。

そう決意して出社した日の午後に、パク・ハの幻を見た。
会社の階段で彼女とキスをしたり、カフェで使われているブザーで彼女のことを呼び出したり、やけに具体的だ。
彼女は、怒ったり笑ったり泣いたり、くるくると忙しく表情を変える。
その全てが、テヨンのことが好きだと訴えていた。
皮肉なことに、この白昼夢を見ている間は、とても幸せな心地がした。
しかし、彼女が消えてしまうと、また見てしまったという絶望に苛まされる。
その度に、頭を襲う鈍痛と動悸に耐え切れずトイレに駆け込んだ。
鏡に写る彼は青白かった。
テヨンは、果たして己も実在するのかわからなくなり、鏡の中の自分の頬に触れると、それは消えることはなく、ただ、鏡の冷たさだけが手に伝わった。
テヨンは、無性に彼女に会いたかった。
生身の彼女を抱きしめて、彼女の香りを胸いっぱいに吸い込んで、安心したかった。

パッカの夢をよく見るんだ。最近は、起きていても。

正直に打ち明けたら、気持ち悪がられることは明白だ。
「あなたは、病気なのよ」
彼女にそう宣告されてしまったら、きっと、それは、二人の別れを意味するに違いない。
既に、彼女に会わなくなってから、一ヶ月が経っていた。
いたずらに時間だけが過ぎていく。
そのうちに、時代劇に出演する俳優ばりに可笑しな格好で街を彷徨う我が身が脳裏に浮かんだり、眠っている内に亡くなったはずの、倒れているハルモニの第一発見者は自分だと思い始めたり、パク・ハ以外の幻まで見るようになってしまった。

『仕事忙しいの?時間を作れたら、教えてね』

パク・ハは、数日に一度、テヨンにメールを送ってくれた。
内容は、決まってその日に起こった他愛もない出来事で、その後に彼の健康を気にかける一文が添えられている。
会いたいと書かれていたことはなかった。
そして、最後は必ず、時間を作れたら教えてね、と結ぶのだ。
メールを受信する度に、テヨンは、文章を色々とこねくり回した挙句に全て消去し、結局、時間が空いたら連絡する、という一文だけのメールを返すことを繰り返していた。
何度も繰り返すうちに、予測変換で文章が出るようになって、最初の数文字しか打つ必要もなくなっていた。
彼は、彼女との逢瀬を、こんな不誠実な態度でずるずると先延ばしするしかなかった。




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【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/05/16 Fri. 21:11  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】どこってことないけど(テヨン編) - 上   

屋根部屋のプリンス連載

我ながら、健全なデートだと思う。
公園のベンチで手を繋いでおしゃべりをして、今はアイスコーヒーを飲みながら、のんびりと街を散策しているんだから。

テヨンは、優しい目元をした恋人、パク・ハの横顔を見つめた。
夏らしく緑が濃い街路樹を見上げて、枝の合間を通り抜けたそよ風を、気持ちよさそうに受けている。
ここまでは、いつもと変わらない。
問題は、その下だ。
なんとなく、なんとなくなのだが、いつもよりパク・ハの胸が大きく見えるのだ。
たまご色の薄手のカーディガンは一番上までボタンが閉められ、丸首の襟は、鎖骨すら隠している。
けれど、いや寧ろ、だから、薄い布地が胸の始まりから終わりまではっきりと形を伝えていて、目が行ってしまう。
普段、可愛いとしか思っていなかったショートパンツ姿も、太ももが色っぽいと感じてしまう始末だ。
彼は、彼女と体の関係がないわけではないのに落ち着かないのは、きっと健全な雰囲気のせいだと結論付けた。
パク・ハが、化粧品を物色したいと言って、テヨンにコーヒーを預けて一人でお店に入っていった。
両手でコーヒーを持ち、歩道で彼女を待ちながら、彼は独りごちる。

パッカはいつも僕のことを優しいって言うけど、今もこうしてパッカを待ってるけど、僕は優しいだけじゃないんだけどな。

戦利品を片手に店から出て来たパク・ハは、彼が胸を見ていることに気づかずに、彼の手からコーヒーを受け取って、ゴクゴクと飲んだ。



その後二人は、映画を見て、今はテヨンの車の中だ。
映画の内容は少年の成長物語で、わんぱくな子犬まで登場したから、大いに感動できたが全くロマンチックではなく、よって二人の会話も相変わらず健全だった。
彼は、路上の駐車スペースに車を止めていた。
日は完全に落ちたが、日中に直射日光を浴びていたため、車内はむっとした熱気が充満していた。
エンジンを掛けると同時につけたエアコンから噴き出す空気は、冷たい。
しかし、座席シートから背中に伝わる熱が、じわりと体温を上げた。
パク・ハは、手をぱたぱたと動かして顔を扇いだ。
「ごめんね。あと少しすれば、涼しくなると思うから」
「ううん、大丈夫。カーディガンを脱ごうかな」
彼女は、シートベルトの下で、器用にカーディガンの袖から腕を抜いた。
それから、エアコンの吹き出し口を自分の体に傾けて、涼しい、と微笑む。
彼女は、ハンドルを離せないテヨンにも、風を当ててやった。
「ありがとう」
テヨンは、パク・ハの座る右側に軽く顔を向けた。
しかし、予想だにしなかった露わになった胸元が目に飛び込んできて、危うく驚きの声を上げそうになった。
急いで前方に視線を戻し、平静を装う。
迫り上がる唾も、ごくりと飲み込んだ。
カーディガンを脱いだ彼女は、キャミソール姿だった。
前の車と車間を保ちながらも、彼の頭の中は、たった一つのことに支配されてしまった。

胸が、ヤバい。

一瞬しか見なかったのに、彼女の胸は、彼の脳裏にしっかりと焼き付いた。
もともと、胸元が開いた服を着るタイプではないから、ふんわりした服装だとわからないが、彼女は豊かな胸の持ち主だ。
それはもちろん知っているのだが、今日の彼女の胸は、谷間がよりくっきりとしている気がした。
胸の上部の盛り上がりも高い。
キャミソールは胸の下半分しか隠していないため、弾力のある白い肌が惜しげも無く晒されていた。
パク・ハは、脳天気に映画の感想を話している。
時折、テヨンに同意を求めるが、彼は頷くのが精一杯だ。
「聞いてる?」
「聞いてるよ」
彼女は、彼の返事を全く信じていないようだった。
それ以上会話は続かず、車内は沈黙に包まれる。
幸い、彼女が怒っている様子はなかった。
彼が運転に集中していると、思っているのだろう。
テヨンは、なんとなく気まずい気分になり、何か言おうとした。
だが、パク・ハの胸一色に染まった彼の頭は、何の言葉も捻り出せなかった。
悩ましいのは、彼が、明るく「今日はセクシーだね」と軽口を叩ける性格ではないことだった。
しかし、何度も彼女を抱いたのだから、そろそろ、彼女の体について冗談を言うのも悪くない、とテヨンは思う。
「なんか、いつもと違うよね」
きっかけが欲しくて、そう言ってみた。
しかし、どぎまぎしながら言ったテヨンとは対照的に、パク・ハは声色も変えずに
「どこらへんが?」
と聞いた。




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【作品名】どこってことないけど(テヨン編)

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/06/05 Thu. 21:32  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】どこってことないけど(テヨン編) - 下  

屋根部屋のプリンス連載

間髪入れずに
「どこらへんが?」
と問われて、テヨンは顔を赤くした。
パク・ハが照れてくれたら、まだ良かった。
安易に前方への視線を外せないので、彼女の表情はわからない。
けれど、声を聞く限り、彼女に動じた様子はなかった。
完全に出鼻をくじかれた彼は、自分から仕掛けた癖に、彼女の問いに答えなかった。

そのままじゃ街を歩けないようなキャミソール姿で、どこらへんが?って、普通聞かないだろ。

テヨンは、意を決して口を開く。
ところが、出て来た言葉は、かなり情けないものだった。
「どこってこと、ないけど」
「どこってこと、ないのか」
パク・ハの返事は、なんだか意味深な間があったような気もしたが、容赦がなかった。
次は、テヨンが何か言う番だ。
しかし、タイミング悪く信号が赤になってしまった。
運転に忙しい振りをして、おざなりに返事を済ますわけにもいかない。
どこって、胸に決まってるだろ。そう言えたら、男らしいのだが。
暗い車内を、街灯が照らしている。
テヨンがちらりと右側に視線をやると、パク・ハは窓の外を見ていた。
盛り上がった胸は、淡い光を受けていつもより柔らかそうだ。
下着は、見えそうで見えない。
隙間なく肌が密着した谷間は、影が濃く、光があたった部分との対比で、より深く見えた。
「どこってこと、ないよ」
テヨンは、もごもごと口の中で答えた。



パク・ハは、内心ほくそ笑んだ。
新調した下着が、彼女の思惑以上に効果を発揮したからだ。
あまりの暑さにカーディガンを脱いだのは、計画外だったのだが。

「デコルテふっくら盛り上がる」

一週間前に、ホーム&ショッピングのチャンネルをつけたら、ちょうど下着の紹介をしていた。
初めは、胸の形が整って綺麗に服が着られるなら欲しい、と思った。
けれどすぐに、思考はテヨンを意識する方向に変わっていった。
テヨンと彼女は何度も体を重ねていたが、それはいつも、何となく始まっていた。
体が触れたタイミングでキスをして、そのままキスが深くなって、というような。
そろそろ、もっと強気に誘って欲しいと思っていた。
この下着を身に付ければ、少しはドキドキしてくれるだろうか、と思いついて、彼女は、彼には内緒でこの商品を注文した。
普段、パク・ハがホーム&ショッピングで買い物をすることはなかった。
彼女が何か欲しそうにしていると、次の日に、ホーム&ショッピングの御曹司で本部長でもあるテヨンが、持って来てくれる。
人一倍勤労の苦労を知っている彼女が、彼に強請ったことはない。
繊細なテヨンが彼女が欲しがっていること察して、社割りだよ、とか、試供品が転がってるから、とか言い訳をしながら、渡してくれるのだ。
彼は、この下着のことも把握しているはずだ。
彼女がこの下着を身に着けていると知ったら、どんな反応をするんだろうか。

会社で、私のことを思い出したりするかな。

気恥ずかしさもあったが、彼の反応を思い描くのは、心弾むものだった。



テヨンが、どこってことない、とパク・ハに返してから、車内に会話はなかった。
見慣れた風景が窓の外に現れ、そろそろ屋根部屋に到着することを告げる。
彼は長く息を吐いたが、彼女は、何も言わなかった。
とうとう屋根部屋に到着しても、彼は黙っている。
彼女は、シートベルトを外して、カーディガンを羽織った。
「あっ」
彼が小さく叫んだ。
「ん?」
彼女が彼をのぞき込むと、彼は咳払いをしてごまかした。
彼女は、彼がカーディガンを羽織ったことを残念がっているとわかっていたが、ボタンを一番上まで掛けて、今日のお礼を言った。
「ありがとう。次のお休みの日に、会える?」
「うん、会えるよ」
いつもは助手席に回ってドアを開けてくれるのに、彼は座ったまま返事をした。
彼女は、ドアレバーに手を掛ける。
がちゃり、と音がして、ドアが数センチだけ開かれた。
彼女はいつもそうするように、彼の頬にキスをした。
「お休みなさい」
次は、テヨンの番だ。
彼女が頬にキスをしたら、彼が彼女の唇にキスを落とす。別れの時の挨拶は、決まっていた。
しかし、テヨンは、彼女を見つめたままキスをしようとはしなかった。
「あのさ」
下へ視線を外して、彼は小さな声で聞いた。
「寄ってもいい?」
あと一押しだ。パク・ハは、彼に合わせて小さな声を出す。
「……どうして?」
「パッカが、色っぽいから」
怒っているような、照れているような目で、彼は彼女を見返す。
パク・ハは、口角を上げて、じゃあ、寄っていく?と誘った。
「うん」
彼は、弾むような足取りで、助手席に回った。
パク・ハの企みは、まだ半分しか進んでいない。
彼が驚くのは、これからだ。
彼女は彼に微笑んだが、何も知らない彼は、何?と首を傾げた。

- - - - - - - -
「パク・ハがホーム&ショッピングで買ったブラ」という素敵なネタを頂きましたので、使用致しました。
ありがとうございます。

また、このお話は、ワコールの昔のCMを元ネタとして、ソンジュン、テヨン、イ・ガクそれぞれのシチュエーションをお話にしています。

■どこってことないけど - ソンジュン編(こちら
■どこってことないけど - イ・ガク編(こちら

元ネタ




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【作品名】どこってことないけど(テヨン編)

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/06/08 Sun. 19:15  tb: 0   コメント: 2

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 11  

屋根部屋のプリンス連載

ソリは、憔悴したテヨンを無理やりソファーに座らせた。
ソファーに沈み込んだ彼は、傍らにあるサテンのクッションを抱きしめた。
韓国の伝統的な柄を配したクッションは、鋲が打たれたソファーによく調和している。
殆どプロがコーディネートしたインテリアの中で、これらのクッションだけは亡くなったハルモニが自ら選んだものだった。
それ故に、三人ともここにあるクッションをことさら大切にしていた。
ソファーの白とクッションのサテンの光沢は、彼の顔色を実際よりも幾分冴えて見せたが、すっかり食が細くなったせいで少し痩けた頬を誤魔化すまでには至らなかった。
「ハルモニが生きていたら、パッカを紹介したかったな」
テヨンがそうソリに言ったのは、クッションを抱きしめたから。
それに、彼とパク・ハの二人が、いたく立腹しているハルモニに頭を下げた夢を見たからだ。
「テヨンが好きになった人だから、きっとお義姉様も気に入るわね」
ソリは、まだ何も思い出していない彼を気遣って、当り障りのない返事をした。
テヨンは力なく頷く。
「部屋に閉じこもっていたら、ダメよ」
彼が引き篭もる場所に自室を選んだのは、そこでは不思議とパク・ハの幻影を見ずに済んだからだった。
「あの部屋にいると、楽だったんだ」
楽だった。
テヨンは、過去形で言った。
初めのうちは、確かにそうだった。
さながら要塞で敵陣からの砲撃に耐える兵士のように、安堵と不安を抱えながら、閉じこもっていた。
だが、彼の要塞は、いとも簡単に崩れ落ちた。
デスクで仕事をしていたら、突然、この部屋にヨン・テムが現れたのだ。
「ヒョン……?」
テヨンは、頭を襲う鈍痛の中で、どうにか声を絞り出した。
だが、彼はもう一人のテヨンと、本の貸し借りの話をしている。
そして、いつもの様に痛みだけを残して、テムはすっと消えた。
その後は、パク・ハがどこかに囚われている写真をテムから受け取ったり、ハルモニと感動の再開を果たしたにも関わらず、自分は孫ではないと彼女を突っぱねたり、後味の悪い幻影ばかり見た。
こんな風に、彼の居場所は消えていった。
だから、もう、閉じこもる必要もない。
「でも、一人きりでいるのは、良くないわ。せめて、ここに座りなさい」
「うん。これからは、そうするよ」
彼女以外の幻影は、辛い状況を物語るものが多かった。
それだったらいっそ、ソリのいる空間に身をおいた方がいい。
鬱々とした気分が晴れることはないが、彼女と世間話でもすれば、少しは気が紛れるだろう。



幸か不幸か、幻影がパク・ハに限定されたものではなくなったことにより、彼女を愛しすぎているという不安は消えた。
まだ、彼女に会う勇気は絞り出せないが。
テヨンは、他にも不思議なことがあった。
仕事をしている最中に、テクスに助けてもらう幻影を度々見た。
相変わらず具体的な内容だが、現在彼がテクスから教えてもらっているカリキュラムとは差があり、より実践的だった。
テムに殴られて昏睡状態に陥る前に、意欲的にホーム&ショッピングの仕事に関わったことはない。
むしろ、そこから逃げ回った挙句にニューヨークまで行ったのだから。
なのに何故、テクスと和気あいあいと仕事をしている幻など見るのか。
そもそも、昔の彼とテヨンは、それほど親しくもなかったのだ。
しかし、それをテクスやソリに聞く勇気は、まだ湧いてこなかった。
一人で解決できるのならば、誰にも知られたくない。
時間が解決してくれるはずだ。
彼は、そう信じていた。




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【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/06/13 Fri. 22:08  tb: 0   コメント: 2

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 12  

屋根部屋のプリンス連載

テヨンは、彼の置かれている状況にお構いなく遠慮も無しに現れる幻影に、多少客観的に相対することが出来るようになってきた。
重苦しい不快感に耐えれば、この幻は消える。と、暗示をかけてなんとかやり過ごした。
一人で解決してみせるという前向きな気持ちが、彼にそうさせたのかも知れない。
きっと何かの役に立つだろうと、ノートに幻影の詳細なメモを落とした。
そして、一日の終りにメモをさらって、彼が見たものを頭のなかで整理する。
この作業でわかったことは、彼の幻影は、この世の他にもう一つのおとぎの国が存在するかのように、愛憎入り交じる生に満ちた世界を作り出している、ということだった。
こんなに具体的な世界ならば、時間軸が存在する可能性がある。
そのことに気付いてからは、ノートを使うのをやめ、メモを簡単に並べ替えられるように、一枚ずつ紙を剥がせるメモパッドに記録を残した。
当初の懸念通り、彼は病に冒されているのかもしれない。
何かしら、妄想癖を伴うような。
けれど、幻影の内容を客観的に把握出来ただけでも、彼にとっては前進だった。
だから彼は、数日間は、少しばかり明るさを取り戻して生活していた。
しかし、彼に与えられた休息は、その数日間だけだった。
彼の休息を奪ったのは、パク・ハの屋根部屋の幻影だった。



それは、そろそろ日にちを跨ごうかという夜中に現れた。
明日は仕事が休みだからと久しぶりにゆっくりシャワーを浴び、自室で最近の幻影を整理するために机に向かっている時だった。
テヨンは、パク・ハの屋根部屋を訪れたことはない。
彼女を家まで送った時に、屋根部屋の前の通りから、古ぼけた建物を見上げるだけだ。
なのに、黄緑と白を基調としたインテリアが、ありありと目の前に浮かんだ。
屋根部屋に入るためには、坂道を登り、煉瓦の壁にそって設置された階段を最後まで上がらなければならない。
上がりきったら、右側に南国の浜辺が描かれた壁画を見ることが出来る。
彼がいつも彼女を見送っている通りからはよく見えなかった壁画だ。
この建物に不釣り合いなほど立派なドアを抜け、更に現れる引き戸をくぐると、右側には白いソファーが置かれており、白樺を眺めながら階段を登れば、かつて過ごしていた彼の部屋に行くことが出来る。
かつて過ごしていた。と思い込めるほど、その幻影は詳細だった。
驚くことに、ドアのロックを解除するナンバーも頭に浮かんだ。
テヨンは、口を手で覆って荒い息を何とか整えようと試みた。
心臓の鼓動が強すぎて、椅子から転げ落ちる。
床にへたり込み、襲い来る目眩にも必死で耐えた。
手の中にあったメモ用紙は床に散らばり、机に置いていた携帯電話も床に転がった。
彼は苦痛に耐え切れなくなり、あぁ、と叫ぶ。
その後は、だんだんと視界が晴れていった。
やっと引いた嵐は、いつもの通り鈍い頭痛を残した。

今まで、行ったことがない場所の幻影を見たことはなかったのに。

混乱した彼の頭に浮かんだ言葉は、振り出しに戻った、だけだった。
それは絶望だった。
彼は、冷たくなった体のまま、床の上で丸まった。
無性にパク・ハに会いたかった。
彼の目線の先に携帯電話が落ちていたが、腕を伸ばしても、それには届かなかった。
両目から涙があふれた。

「パッカ……」

床が涙で濡れるのも構わず、彼は泣き続けた。
パク・ハに会いたい。
空っぽになった彼の心に残ったのは、彼女だけだった。
自らの身体を両腕で抱きしめ、幼子のように声を上げて泣いた。
幻影を見るようになってから、彼が初めて流した涙だった。




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【作品名】はじまり

【テーマ】 屋根部屋のプリンス二次小説  テヨン×パク・ハ 

2014/06/29 Sun. 14:03  tb: 0   コメント: 0

【屋根部屋 二次小説】はじまり - 13  

屋根部屋のプリンス連載

床の上で丸まったまま寝てしまったようだ。
テヨンが意識を取り戻した時、窓から見える空は薄っすらと白んでいた。
彼はパク・ハの夢を見ていた。
それが現実にあったことなのか幻想なのか、考える気力はなかった。
体の左側を下にして寝ていたせいで、左腕の感覚がない。右腕で床を押して、体を起こした。
数歩進んで携帯電話を拾うと、彼はまた床の上に転がった。
携帯電話のディスプレイは午前四時を告げている。
彼は頭が空っぽなまま、アドレス帳のパク・ハの名前をタップした。
午前四時に彼女が電話に応えることはない。そんなことをぼんやり考えながら呼び出し音を聞いていた。
呼び出し音は、なかなか留守番電話の案内に切り替わらなかった。
彼にとって、それは幸いだった。
留守番電話に残すべき言葉など、思いつかなかったから。
ただ、この音をいつまでも聞いていたかった。
床に携帯電話をおいて、顔を携帯電話の傍に寄せた。
この音の先には、パク・ハがいる。そう思うだけで安らげた。
「テヨンさん?」
呼び出し音が切れ、暫しの間のあと、電話の向こうで、パク・ハの小さな声がした。

ああ、パッカの声だ。

彼は、呼びかけに答えなかった。
電話の向こうで、どうしたの?と問う声がする。
ひと月以上聞くことを拒んでいた彼が一番好きな声は、黙っている彼を心配していた。
だが、彼女は、彼が黙っていたいのだと察した後は、何も言わずに彼に付き合った。
「パッカ」
彼は、彼女の名前を呟いた。
うん、と彼女は答えた。
もう一度その声を聞きたくて、彼はまた呟いた。
「パッカ」
うん、と彼女は答えてくれた。

「会いたい」

枯れたと思っていた涙が、また両目からこぼれ落ちた。
判断力を失った彼の頭は、彼の本心をいとも簡単にさらけ出した。




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2014/06/30 Mon. 21:39  tb: 0   コメント: 0

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